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朝食(アトミック・カフェで)

カバーズ カバーズ

アーティスト:RCサクセション
販売元:ユニバーサルJ
発売日:2005/11/23
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 ある数字が一つの時代のムードを端的に象徴している場合がある。村上龍が小説の題名にもした“69(シックスティ・ナイン)”はその典型であろうが、同じ意味で私の場合それは“88”である。無限大マーク二つ繋がりのバカボンのパパ的脳天気さが感じられる字面のこの頃、日本はバブルの真っ只中で、皆、無理して豊かさを装っているように見える一方、かつてサブルチャーとしてかたずけられていたものが息を吹きかえしたりして、それは奇妙な日々であった。

ソ連ではゴルバチョフがペレストロイカを推し進め、ニュースは昭和天皇の下血の様子を毎日伝えていた。広瀬隆の『危険な話』が売れ、反原発の気運が盛り上がっていた。就職の内定が決まった学生達は企業に海外旅行に連れて行ってもらえたし、大人たちの多くがいたるところで株の話をしていた。アメリカ・インディアンのホピ族が部族のパスポートで来日し、佐野元春は雑誌『This』を刊行した。RCサクセションの『Covers』は発売中止になった。辻仁成のバンドエコーズは『ジャック』を歌っていて、年末にはビート最大の詩人アレン・ギンズバーグが来日した。

 この頃、私は大学四年生で、しかし、就職活動をしなかった。バンバンの『いちご白書をもう一度』(古っ!)では髪を切り、君にいいわけする年頃だったのだろうが、私は髪を切らなかったし、第一、言い訳する相手なんかいなかった。

 私は弟とゼミの友人達とで、あるイヴェントの企画に奔走していた。イヴェントは反原発のメッセージを含んだもので、ホピ族の予言を描いたドキュメンタリー映画『ホピの予言』の上映と、シンポジュウム、詩の朗読、コンサート、写真の展示を併せたもので、7時間に及ぶものであった。出演者の一人だった今は亡き詩人の諏訪優氏と何故か私が詩を読むことになり、イヴェントのテーマに相応しい詩を書かなければとあせった私は、朝いつもバイトに行く途中で立ち寄っていた喫茶店の紙ナプキンを大量に無駄にしながらこの詩を完成させたのだった。

  

    朝食(アトミック・カフェで)

   

     にわとりの鳴き声が響く 

  紫色の朝は失われ

    生き残りの酔いどれが

    亡霊のように漂っていく午前五時

    劇的な高層建築よ

    あれは何という王の墓だ?

    

    迷走する始発電車は 未来と過去を紡ぎ

    その中で人は

    今日一日について瞑想する

    円やドル

    広告のゴシップといった都市の聖句

    正義という みにくいアヒルの子

    神の朝食には

    ここのところ毎日

    毒が盛られている

  

    窓を開け放ち

    愛が始まる時のように

    そんなふうに太陽は昇るべきだ

    この策略の島に

    まだ訪れたことのない夜明け

    地平線に座る

    マーサウ

    

    囚われの身の農夫だ

    オレンジが腐っていくのを

    ダマッテミテイルシカナイ

    そんな無力感が

    鉄の文明を透明にする

    50億の体を軸にして

    回る巨大なオレンジ

    それぞれの夢の中で

    お前は何度死んだことか

    青ざめて回る

    巨大なオレンジよ

          

    権力の着る服は黒

    自由にはまとう布着れ一枚もない

    だから君はいつも裸で

    瞳は

  イヴの誘惑の果実に注がれている

    君の涙が雨になれば

    幾人かの殺人者の魂は

    水蒸気になって

    天国に行けるかもしれない

        

    止まれ世界よ

    たのむから しばし 止まれ

    これ以上舗道に

    悲しみを溢れさすな

     

    人間の形をした悪は

    古代からずっと

  ボタンを掛け違い続けている

    科学の舞台で踊るミューズ

    彼女の目の下の隈は

    永遠に

  取れないだろう

  

    君の

  タイムマシンの記憶の海辺にある

    奇妙な名前のカフェテリア

    ドリップするコーヒーの

    し

    ず

    く

    は

    破滅への秒読みか

    やがて12月

    一瞬、眩しい光を見た気がして

    窓の外の空に

    君は どんな形の雲を 想像する?

 

  友人のギターとパーカッションを伴った私のこの詩の朗読の後、諏訪さんは傑作長編詩『アメリカ』を下村誠率いるバンドの、レゲエの演奏をバックに読んだ。そのテープを一時期私は愛聴していたが、その後の東京漂流居候生活時代の中で失くしてしまった。諏訪さんは初めてゼミの先生と仲間達と田端で会ったとき、待ち合わせ場所に風呂桶を持って現れた。商店街を一緒に歩くと魚屋のおじさんや八百屋の店員さんが皆、声をかけて来て、気恥ずかしそうに歩く諏訪さんはでも、とてもかっこよかった。

 この頃、諏訪さんは最後の詩集『太郎湯』の刊行前後だったと思う。イヴェントの後、諏訪さんにはギャラの他に銭湯のお風呂券をあげたのを覚えている。

       

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