自転車にのって
今年に入って自転車が2台も盗まれた。私も妻も子供たちもいつも必ず鍵をかけるのだが、年に何度かかけ忘れる時がある。その僅かの隙をついて盗んでいくのだからたいしたドロボーである。
今だから感心したようなことを書いているが、盗まれた直後はもちろん腹を立てているので、犯人を捕まえたい、捕まえられなくとも盗もうとしたヤツをなんとかひどい目に合わせてやりたいと、妻とあれこれ算段したものである。
『サドルにガムをくっつけておくとか・・』妻の目が不気味に光る。
『いや、それなら画鋲を仕込んでおくほうがいい・・暗闇じゃ見えないほどの細いワイヤーで置き場の柱に長く繋いでおいて、しばらく走って行ってから、転倒するようにしたらどうだろうか?』と作戦武官の私。
『そして、音がしたら熱湯をバケツに用意しておいて、犯人にぶっかければ・・』と、妻。
『いいや、それならペンキのほうがいい・・逃げたとしてもペンキが滴っているから、逃走経路が分かり、すぐに捕まえられる・・』
『そして、その後、布団叩きで・・・・・・・・・・・・』
平和な夜の食卓で、日頃は善良な父と母の底なしの悪意を初めて目にし、息子は呆れ、娘は怯えていた。子供たちよ、清らかで美しい聖者の心にもふとしたキッカケで、毒の花が芽吹くこともある、このことを良く覚えておきなさい。
そんなこんなでしばらく私と妻は自転車なしの生活を強いられた。なければないで人は慣れるものである。最近ハムをつくる仕事に従事している妻は、朝、いつもより少し早く家を出るようになり、コンビ二まで歩くのがおっ苦うな私は買い置きのビールが無くなればそれ以上飲まなくなった。だが、ある日、我が家から少し遠くにおいしいコロッケを出す肉屋があり、家族中大好物なのだが、それなのに妻が近くのスーパーのコロッケを買ってくるのを見て事態の深刻さを悟った私は、ついに新しい自転車を買う決心をした。
『中古でいいか。』と私。
『どうせまた盗まれるから。』と妻。
で、現在、乗っているのは五千円で買った中古のママチャリである。頭に浮かんだ言葉がすぐ口について出てしまう妻は『ほんとうにこれ電気点くの?』と店先で言ってしまい、『失礼だなぁ。』と自転車屋の兄ちゃんは何故か、妻じゃなく私を睨めつけて言った。
私はママチャリ・ファンだ。子供たちが今よりずっと小さかった時もハンドルの部分につけるイスを設置して、後ろにも前にも子供を乗せ走り回った。警官が『それは違反だ。!』と言っても『じゃあ、なんでこの商品の販売を許しているんだ?』と叫んで振り切ったし、少し大きくなってからも3人で多摩川沿いを良くサイクリングしたものだ。
その時、良く口ずさんだ曲が3曲あって、それはクィーンの“Bycecle race”と、矢野顕子&佐野元春の“自転車でおいでよ”それと故高田渡の“自転車にのって”である。前半は意気揚々と“バーイセコッ、バーイセコッ”と,蜘蛛の子を散らしたようにクイーンで出発、疲れてマッタリしてくるとアッコ&元春で、走行中のほとんどの距離は高田渡の“自転車にのって”であった。
自転車に乗って
ベルを鳴らし
あそこの原っぱまで
この間の野球の続きを
そして帰りにゃ
川で足を洗って
自転車にのって おうちへ帰る
『自転車にのって』~高田渡
渡さんのこの曲は自転車に乗るときの気分を本当に良く表していて、渡さんの偉大さ?が実感できる名曲である。しかし、これはマウンテン・バイクや本格的なレース用のやつじゃ駄目で、ママチャリでなければいけない。真似して見ようと思った方、要注意です。
我が家の新顔の中古自転車くんはまだ盗まれてはいない。変な仕掛けは施していないから、深夜、自転車の転倒する音に夫婦揃って耳を澄ますようなこともない。今のところ家族全員、またおいしいコロッケが食べることができて、ひとまずめでたしめでたしである。
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