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La Mer 

 

     冬の海の
     深い藍色の叫びと
     びゅーびゅーと荒ぶる風の魔力に捕らえられ
     巨大で
     美しい絵の中に閉じ込められた午後は
     駆ける砂の上に
     人類の痕跡はもはや二人の足跡だけで
     目の端をかすめ行く太古の舟は
     地動説の水の淵に
     今、零れ落ちるところ

     風に暴かれた貝殻の墓地よ
     濡れて滴る水彩の空の青の下
     万物は
     目に見えない生の時間が
     結実しもたらした色とかたち
     闇と光
     眠りと波
     自然とは偶然の出来事じゃなく
     たとえば
     無限の砂の一粒にさえも
     凝らされている精霊の意匠
     その込められた熱意の激しさにおいては
     平等だ
     幼い君の
     柔らかく黒い髪も

     海は女だから
     私は君から生まれた
     海は女だから
     私は君と交わり 君を授かった

     沈黙に秘められた未知の和音(コード)を
     探り当てようとして波は砂にその指を広げ
     太陽の中で煌く炎の都市が
     爆発するたびに揺れ動く水の地球
     言葉は釣りそこねた魚のように
     影になり逃げるから
     君の心に
     海は
     轟くばかりで まだ何も語りかけぬまま

     海が知っているのは 彷徨う風の行方
     海が知っているのは 輪廻する空の記憶
     海が知っているのは 死に逝く月の遺言
     海が知っているのは あの鳥が目指す国
     海が知っているのは 眠る海亀の見る夢
     海が知っているのは 人が攻めぎ合う愛の領土

     だが君の内部で息潜める未来の種と
     その咲く花の色を海は知らない

     うねる海原に散らばる銀の
     割れた鏡を拾おうとして
     君が触れるのは
     初めての孤独
     真新しい孤独

     それから眠くなりまどろむ君の目を
     射抜いて飛び去る
     錆色のカモメと
     今日の日没の
     最後の一滴ー

 

昼間は暖かいと思っていたけど、夜はやはり寒い。柚子湯に入って寝ます。おやすみなさい。 

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詩集「The letter」 (79)」カテゴリの記事

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