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『ディランを聞け!!』~カメレオンの観察

ディランを聴け!! Book ディランを聴け!!

著者:中山 康樹
販売元:講談社
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  凄い。何が凄いって、この商売を考えたこの本の著者がである。この著者には他にも『マイルスを聴け!!』というのもあって、数年前、タワーレコードの中のブック・コーナーでこのマイルス・デイビスの全曲紹介本を手に取った私は、内心『これで、ディランを書いたら面白いのに・・・』と、思っていたので、本当にこの本が出た時は驚いた。

 本書を含めこの著者のこのスタイルの本を『完全制覇本』というらしい。昨日、本屋にいったら『レノンを聞け!!』というのがあったので、この人、この路線でとことんまでいくつもりらしい。

 さて、ボブ・ディランであるが、私は小学校5、6年生からディランを聴いているので、リスナーとしてのキャリアはもう30年になる。何故、そんなガキの頃からと思う向きもあろうが、丁度、その頃、ディランの初来日というのがあって、それは今じゃ考えられないほどの事件だった。当時、井上陽水や吉田拓郎で盛り上がっていた兄と弟にライバル心を抱いた私は、今、話題になっているこの人のレコードを買えば二人に勝てると思い、当時にしては大金だった2500円をはたいて、“来日記念盤”との帯がついた日本でのみ編集されたディランのベスト版を買ったのである。しかし、買っていきなり、衝撃を受け、それ以来・・・となったかといと、全然そうはならなくて、正直、泣きたかった。全然メロディーのない歌を、変な声の男がわけの分からない内容で歌っているというのが第一印象で、レコードに針を落としてしばらくして、兄に『バッカでぇー』と、言われたことを覚えている。

 だが、これは始めて煙草を吸ったり、酒を飲んだ時と同じで、初め、二度とこんなものに手を出すまいと思っても、2度、3度と悪戯しているうちに、ついにはそれがないといられない体になってしまう。つまり私はその後、少しずつ“デイラン・ジャンキー”になっていったのだ。

 さて、この『ディランを聞け!!』だが、この本の大きな魅力は一曲に対していくつものバージョンが存在するディランの変化自在なスタイルをそれぞれに解説することで、何処にその曲のピークが在るかを詳細に分析した点にある。正に著者の“完全制覇”スタイルはカメレオン、ディランのためにあると言っても過言ではあるまい。例えばアルバム『時代は変わる』の中の、あまり目立たない曲だった『いつもの朝に(One  too many morninng)』は初め★★だが、ライブ『ロイヤル・アルバート・ホール』のバージョンは★★★★☆となり、ライブ『ハード・レイン』においてついに★★★★★となる。~One too many morninngのみならず、ディランの全音源の中でこのバージョンこそがベスト~と著者に言わしめるほどである。

 また、この本の新しいところは、往々にしてその詩に重点が置かれ、解説、分析されてしまうディランを、1にも2にも“音楽家”“歌手”としてディランを捕らえようとした点であり、新しいボブ・ディラン像を出現させることに成功している。また、その視点で各アルバム、各曲を見ていくと、従来のものとは大きく評価が変わり、今まで傑作とされていた曲やアルバムが意外と評価が低く、余り評判が良くなかったものが“傑作”とされている点が面白い。       

 ちなみにこの評価の幾つかが、意外に私のそれと同じだったりするので、個人的に痛快だったりする。その中の一つに『武道館ライブ』についてがあり、著者はこの『武道館ライブ』から『ストリート・リーガル』の頃が音楽家、アレンジャー、歌手としてのディランの一つのピークとして見ている(うん。うん)。ちなみに『ストリート・リーガル』の中の一曲、“イズ・ユア・ラヴ・イズ・ヴェイン”について。~“ドゥ ユウ ラブ ミー”と歌い始めるディランのざらついた声、毒と皮肉をやさしさというヴェールで包んだかのような声。これほどの名曲、名演、名唱があるだろうか?ないと断言できず、事実ほかにあるのがディランだが、中でもこの、“イズ・ユア・ラヴ・イズ・ヴェイン”はトップに位置すべき傑作中の傑作。~とある。(その通り!)。

 この本はディランが新作を出すたびバージョンxxとして、絶えず更新される。(つくずく凄い商売。)私は一冊持っているが、ディランの最新作『モダン・タイムス』の曲が解説されたバージョンのこの本が出たら、また買ってしまいそうで怖い。しかし、この著者は確かに凄いが、それをやらせてしまうディランが元々凄いのであって、品切れ状態の世界にあって、彼こそ生きる伝説と言って相応しい。

 この本によると、1994年、奈良の東大寺においてディランは東京フィル・ハーモニー・オーケストラをバックに『激しい雨が降る』、『アイシャル・ビー・リリースト』、『リング・ゼム・ベルズ』の3曲を歌っていて、これが“歌手”ディランの凄さを思い知らせる超絶的な名演、名唱らしい。しかし、オーストラリア版でEPがあるのみで現在入手困難とある。誰か持っている人いたら連絡下さい。

 とにかく『ディランを聴け!!』を読め!!

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コメント

『ジョン魂』は辞書が無くても詩の意味がわかってしまうストレートな歌が多い。ディランの詩は辞書があっても意味がわからない歌が多い。
確かレノンが「ディランがどんな意味の詩を歌っているのか聞く必要は無い。どんな風に歌っているかを聴けばいい」といったような内容のことを言っていたような気がする。(記憶違いかもしれないが)。
90年代初めにディランのライブをみたことがある。埼玉のあまり大きくないホールだった。当時のディランは50歳は超えていたはずで「仙人を見に行く」ような参拝気分で見に行った。ところがステージのディランは"革ジャンをきたロケンロールにいちゃん”といった風情でジャカジャカとエレキギターをかき鳴らしていた。Fコードを押さえるのがいまだに苦手って感じのぎごちない演奏だった。でも想像以上にかっこよかった。いい意味で予想を裏切られた。チビだったけど。何よりも凄いのは"コア”なファンが大半を占めるであろう観客が、曲が始まって1分以上たっても何の曲を演奏しているのかわからずに2分くらいたったところで「あっ!戦争の親玉じゃん!」と少しずつ気づくといったパターンが繰り返されたことだ。ストーンズならキースの最初のワンフレーズでその曲にあったステップが踏めるんだけど、ディランの場合、相当緊張感を持って聴いていないと、"通”ぶって全然違う曲のノリをしてしまい恥を掻きかねない。ミュージシャンとオーディエンスの微妙な緊張感があったことを覚えている。
ちなみに私のディランのお気に入りは『Real Live』で演奏された「TANGLED UP BLUE」だ。

投稿: jazz坊主 | 2007年1月31日 (水) 00時09分

多分、それは大宮ソニック・シィティでやった時じゃないかなあ。同じ日かどうかわからないけど、僕もそれ見ました。(そういえばこれも下村さんと二人でいったんだよなあ・・)。
 僕は80年代半ばにトム・ペティ&ハートブレイカーズを従えて来た時も2回見ました。その時、『60年代に良くラヂオでかかっていた。』と前振りがあって、『上を向いて歩こう』をやってました。
 90年代半ばのときは、4人編成のバンドで、ほんとロッケンローラーって感じでしたね。

 今回、紹介した『ディランを聞け!!』でも、『リアル・ライブ』は凄く評価高いです。僕はミック・テイラーのギターが炸裂している『ハイウェイ61』が好きだな。

 ちなみに私の妻は『スロー・トレイン・カミング』が1番だと言っています。色々だね。

投稿: ナヴィ村 | 2007年1月31日 (水) 20時01分

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