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『ランド・オブ・プレンティ』~必殺のロード・ムービー

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 私はクリスチャンではないしイスラム教徒でもないので、一神教の神を信じる人の異教徒に対する感情というのは良く分からない。その上、私たち日本人は正月もやればクリスマスもやるという、いわば“八百(やおろず)の神”を崇める国民であり、それは9・11以降のキリスト教文明とイスラム文明の対立の様相を呈する世界の中にあって、次の世界市民としての理想のモデルだと言う人もいるが、私は自分も含め、単に宗教に無知な国民だというのが真実だと思っている。

 しかし、そういった日本人のような国民は稀な例外であり、この地球上の3分の1~2の人は一神教であるこのキリスト教かイスラム教の信者だと思われるので、現在のような対立の構図は歴史的にずっとあっただろうし、9・11はそれを今また露わにしただけなのかもしれない。

 去年も相変わらず私は沢山の映画を見たが、私の地元が舞台となった『フラガール』を除けば、私にとって去年のNO1(去年、封切られたという意味ではない。)はこの映画『ランド・オブ・プレンティ(2004)』だ。

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 私はヴィム・ベンダースの映画は『夢の涯てまでも』に深く失望して以来、全く見なくなっていた。だから“『パリ・テキサス』以来の最高傑作”と銘打たれたこの映画も実はそれほど期待してはいなかった。私の好きなヴィム・ベンダース映画は『都会のアリス』、『まわり道』、『さすらい』等、小津安二郎の影響色濃いデリケートな演出の“ロード・ムービー”で、だからテーマと設定は面白くても大掛かりなハリウッド映画のようになってしまった『夢の涯までも』の失望は強く、この映画の“最高傑作”というコピーに、またか、と誇大広告の臭いを勘ぐってしまった。

 映画はアフリカとイスラエルで育った少女ラナが10年ぶりに故郷のアメリカに帰ってくるところから始まる。何年も会っていない伯父に亡き母の手紙を渡すためにである。ヴェトナムで負傷し、長年その後遺症に苦しむ伯父のポールは9・11をキッカケに祖国を守る自称“母国警備員”の活動を続けている。そしてダウンタウンにあるキリスト教の伝道所で生活を始めたラナは、教会そばで起きたアラブ人ホームレス射殺事件をキッカケに再開した伯父ポールとある目的を果たすため旅に出ることになる。そして最後に二人がたどり着いた場所は・・・・

 ヴィム・ベンダースはこの作品を僅か16日間で、手持ちカメラで一気に撮りあげたという。“今、一番重要な事柄を映画にした”と語ったヴェンダースだが、まさに今この時とばかりに、彼が使ったのは封印していたのか思われていた“ロード・ムービー”という手法。それは彼の場合、必殺の、という形容詞がふさわしい。

 ヴェトナムでのトラウマを抱え、滑稽なまでに懐疑的なポールにミッシェル・ウイリアムス演じるイノセントなラナを対比させることによって、信じる神や立場、考えの違いがあってもなお人は互いに愛や信頼を示せること、またそれさえあれば戦争やテロで破壊され一見荒涼としたものなってしまったかに見えるこの世界も、まだ“ランド・オブ・プレンティ(豊かなる大地)”に成り得るのだと、私にはこの難しい時代にヴェンダースがそうメッセージしているように見えた。直球過ぎるが、今は心が洗われる。

 いつか遠い将来には、“ヴィム・ベンダース”の名はこの映画とともに記憶されているかもしれない。21世紀初頭の人々は9・11のような悲劇に見舞われながらもこの映画の中のラナやポールのように生きたのだと・・・。それは現在に生きる私たちへの未来からの杖と鞭、いや最高のエールになるかもしれない。

 ありがとう、ベンダース。

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コメント

“八百(やおろず)の妻”を私に与えてもらえれば、日本の少子化問題は簡単に解決できるのに・・・。
養育費は税金でまかなってほしい。

紹介されている映画を見たことはないですが、『パリ・テキサス』は良い映画ですよね。主人公の不器用さ、虚無的な感じ。
ナスターシャ・キンスキーの“一発やれたら死んでも良い級”の美しさ。

ロード・ムーヴィーのように、でかいアメ車でヨシュア・ツリーなんか走りたいなあ。

そういえば私のアイドル、グラム・パーソンズは死んでから悪友に遺体を盗まれてヨシュア・ツリーでガソリンぶっかけられて“丸焼き”にされて(一応火葬のつもりだったらしい)、遺族の元に戻ったときの重さが20数キロしかなかったんですって。焼き加減が生焼けだったのでしょう。
遺族は怒っているし、悪友は遺言を守ったと主張しているし・・・。偉大な人は死んでもほうっておかれないのが気の毒ですね。

投稿: jazz坊主 | 2007年2月 8日 (木) 19時37分

風邪治ったかい?ナスターシャ・キンスキーって僕も好きだったな。『マリアの恋人』なんて見た日にゃ、眠れなかったよマジで。今、何やってんのかな。

 へえ、グラム・パーソンズってそんなことあったんだ。知らなかった。でもたまにファンが遺体盗むってあるけど、それ全然分かんない。
チャップリンも死んでから確か遺体盗まれてる。出てきたのかな?知らないけど。そういえば王監督の奥さんの死体も盗まれた。盗んだ人って一体どうすんだろうね。

 昔、アメリカ行った時はグレイハウンドバスかヒッチ・ハイクだった。僕も今度はレンタカー借りて走りたいんだよね。藤原新也の『アメリカ』みたいに4×5のカメラ積んで風景撮影しながらとか。ところでヨシュア・ツリーってどこにあんの?今度おせーて。

 
 

投稿: ナヴィ村 | 2007年2月 8日 (木) 21時24分

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