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Ground


月光の海の
その無音の群青に
いつまでも身を浸していると
魂はいつしか
降り注ぐ光の矢から
スローに逸れて
クラゲのように
水没した古(いにしえ)の神殿を
あても無く
漂い始める

魚群は銀色の腹を見せて翻り
命は嬉々として
肉体を抜け出ようとする
この水の惑星の
圧倒的な美に犯されて
鯨よ
僕は
この甘美な死のミステリーに
もっと深くダイブしたい


頭上ではゆらゆらと
光が
出口へと手招く
浮上を試みると
海底で鳴る
鍵盤の一つ欠けた
19世紀の
古いピアノ

 

 

この詩はあるアーチストの絵から生まれた。今から6~7年前の夏、私が責任者を務める現場に、ある女性がアルバイトにやってきた。少し言葉を交わすようになって後、私はその女性が画家であることを知った。

一度絵を見せて欲しい、と私が言うと、初め彼女は写真を持ってきてくれ、その中の一枚を私はとても気に入った。なんでもその絵は彼女がまだ学生の頃の、つまりとても初期の作品で、他の絵にはほとんど題名が無いのに、その絵にだけは“Ground”という題が付いていた。私が何故かと聞くと、彼女は、自分でも良く分からない、と言った。

私の仕事はフィールドワークで、彼女がバイトに来たその年の夏はとても暑く大変だった。そして、そのフィールドワークの時期が過ぎ、室内で資料整理をする頃、彼女は私が気に入ったと言った絵を職場に持ってきて飾ってくれた。その頃の私は貧しくて(今でも貧しいが)、とてもその絵を買うことはできなかったが、その夏の終わりから秋のひと時、おかげで私はとても豊かに仕事をすることができた。

“Ground”はブルーを基調にした抽象画で、とても私の想像力を刺激する絵だった。しかし、題名との関係が今一つ分からず、それで辞書で調べるとGroundには“海底”という意味があることを知った。そして、それを知った途端、瞬時にこの詩が出来上がってしまった。

彼女と会わなくなって随分経つが、彼女は相変わらず絵を描いていて、彼女のホーム・ページで見る限り、絵は初期の“Ground”の頃よりも軽やかになった印象を受ける。それは、生真面目な彼女の、ありきたりな日常からでも鋭敏に何かを得ようとする日々の格闘がもたらした一つの達成であると思う。自らのアートに馴れ合わず、常に真剣に創作に向き合っている彼女を私はいつも羨ましいと思っていた。

人づてに聞いたところ、彼女は今、近く行くためにイタリア語を勉強中だとか。彼女は本当にフットワーク軽く何処へでも出かけて行ってしまう人で、私は密かに彼女を“インスピレーションの狩人(ハンター)”と呼んでいる。

U野さん、次の旅に祝福を。いつも個展に行けないけど、また新たな“獲物”?を見せてくれるのを楽しみにしています。

PS. この詩の最後のピアノは、映画『ピアノ・レッスン』のラストで海に沈んだあのピアノです。これ、前に言ったけ?

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