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着ぐるみを脱いだロッカー

Photo_1  昔々、歌謡曲というジャンルの音楽がありました。~ありました、と過去形で書くのは、それは70年代後期に、サブカルチャーの側から“フォーク、ニュー・ミュージック”なるものに侵食され、今ではJポップというワケのわからないジャンルに変質してしまったからです。この前久しぶりにテレビの歌番組を通して最後まで見たら、今、日本の音楽シーンはこの“Jポップ”と演歌の二つしかない状況になってしまったなあ、と改めて思いました。

“日本人が、ロックと思ってやったり聞いたりしているものは、全部、少しテンポが速く、ドラムの音がデカイだけの演歌”と言ったのは村上龍&坂本龍一ですが、それは音楽の構造上の問題だけでなく、精神的な面でも言えているような気がします。でも私は逆にかつての“歌謡曲”の中にこそ日本の真の“ロック”があったとも思っていて、その代表選手がこの人、ジュリー、沢田研二です。彼の『ロイヤル・ストレート・フラッシュ』なる第3集まであるベスト盤を聞くと、それはもう綺羅星のごとく輝く名曲の数々、そんなに熱心に聴いていた人じゃなくても絶対口ずさめてしまう曲のオンパレードです。ちなみ私のベスト5を紹介しますと

 

      1 危険な二人

      2 憎みきれないろくでなし

      3 追憶

      4 サムライ

      5 あなたに今夜はワインをふりかけ

 

 と、いうことになります。ね、凄いでしょう?この他にも『TOKIO』もありますよー、『酒場でDABADA』もありますよー、『恋のバッドチューニング』も、『六番目のユ・ウ・ツ』もあります。

彼は日本のミック・ジャガー、私、そう思います。え?って言う人、例えば映画『小さな恋のメロディー』で、イギリスの女の子たちが校舎の裏で順番にミック・ジャガーの写真にキスするシーンがありますが、ミック・ジャガーって純然たるアイドル歌手だったんで、ジュリーはその正統な匂いを醸しております。

 そして、ここからが大事なんですが、それでいて“反権力”(懐かしい響きだ)の匂いも同時にしていなければならず、テレビドラマ『悪魔のようなあいつ』で三億円事件の犯人役をやったり、映画『太陽を盗んだ男』で原爆を作り、政府に野球中継を最後までやるよう脅迫する理科の先生役をやったりしていた彼は、当時の革命への憧憬が微かに残る不良どもにも熱く支持されていたようです。

 しかし、反権力とか言わなくても『8時だよ!全員集合』でいかりや長介の『だめだ、こりゃー』の後、さっきまで志村けんとコントをやっていた彼が、舞台の設定がドタバタと変わった後、突然、ナイフを片手に現れて歌ったり(サムライ)、ウイスキーの小瓶を口に含んだと思いきや“ブーーー”と噴出す姿(酒場でDABADA)に、まだビートルズもストーンズもディランも知らない野球少年だった私は、悪がかっこいい、という“ロック”へと至る道を無意識に教えられた気がします。

 この“反権力”感、不良的なものの極にあとちょびっと針が振れると、それは同じGS出身で、“戦後最大の不良少年”と言われたショーケンになりますし、お笑いもやる美少年のアイドルという極に振れると、現在のSMAPのようになってしまって、どちらでもないその絶妙なバランス感覚で当時全盛を誇っていた彼は、現在から見ても、空前絶後の存在だったと思います。

 今、聞くと80年代の『TOKIO』以降の路線より、70年代の路線の方が圧倒的に素晴らしいです。その頃のバックの面々は皆、元GSの人達が多く、何故この人達が日本の音楽シーンを牽引していかなかったんだろう?と思いました。でも、このGSくずれ、やさぐれ感たっぷりのミュージシャン達の凄さは、ショーケンが大麻と交通事故と離婚が重なって“戦後最大の不良”度が頂点に達した、80年代半ば読売ランドイーストで行われた“アンドレ・マルローライブに記録されていて、特に井上尭之と速水清のギターが一つの時代をくっきりと切り取っています。これは日本の『ラスト・ワルツ』、日本のある時代のロックの終焉の宴で、見てない人、必見ですよ。

 と、ショーケンの話になってしまいましたが、何が言いたいかと言いますと、ジューリーの場合、いつ彼があのモンスター的な役割から降りたのかが、今もって曖昧だということです。『ジュリーの全盛期の終焉とその音楽史的な役割についての考察』。なんか論文が書けそうです。

 一度だけ彼が“芸能界”という“着ぐるみ”を脱いで、本性のロッカーである姿を晒しているのを見たことがあります。無論テレビでですが。それは昔、毎年、大晦日に内田裕也が主宰していたロックのイヴェントでのことです。それには故松田優作なんかも出演していまして、ジュリーは紅白出演後、急いで駆けつけた様子で『NHKはかったるかったぜ!!』みたいなコメントの後、もの凄いステージを展開しました。曲は井上陽水作の『just fit』。https://youtu.be/xbRlOE2pENA
客は皆、ちょっと怖い系の野郎ばかり。しかし、皆、総立ちで拳を振り上げ熱狂していました。女の子の黄色い声プラス、野太い、怒号のような歓声。その客を挑発し、暴れまわるジュリー。こりゃあ、ショーケンよりもスゲエや、と私は思いました。

 最近、全然見ないけど、たまに見たら彼は太って、貫禄のある良いおじさんなっていました。実家の母なんかは『昔よりも今の方が素敵ねえ。』と言っていましたが、ある意味それはそうなのでしょう。しかし、ファンである私はもう一度、彼のあの大晦日の夜のような“本気”のステージを見てみたい気がします。あのノリで“危険な二人”を歌われたら、私はもう一度、十代に戻って、ジェニファー・オニールのような美しい未亡人に誘惑されたくなっちゃうでしょう(別に歌ってくれなくても)。

 痩せるんだ、ジュリー、アイ・オブ・ザ・タイガーを取り戻せ!(彼は元タイガースだから)  生卵飲んで走れ!

 スタローンはやった。ジュリーも出来る!!

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