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『欲望の翼』~蒸し暑い恋

欲望の翼 DVD 欲望の翼

販売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
発売日:2006/06/23
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 ザビアクガードの音楽とフィリピンの熱帯雨林、そして1960年代の香港。蒸し暑さで登場人物たちの肌が汗でテラテラと光って、強烈にセクシーな映像です。日本では1992年公開と言うから、もう15年も前の作品ですが、現在においては香港映画の範疇を越えて、映画史的にも“神話的”な傑作とされています(最近流行の伝説の~ではありません)。

 監督ウォン・カーウァイにはこれの“2”の構想もあったと言いますが、作るのはもう難しいだろうとも言っています。何故なら急速な勢いで変化を遂げる香港において、現在ではこの映画撮影時のロケ地がもう無くなってしまったこと、また何よりも出演者が皆、その後、スーパー・スターになってしまってギャラが高くなってしまったことなどを理由にあげています。

 初めて見たときの印象は雨。物語の大半のシーンにザーという雨の音がして、そして蒸し暑そうな部屋で汗を光らせながら、やたら良い男と良い女が求め合ったり拒んだりのシーンを繰り広げます。そしてこの息苦しさ、蒸し暑さは恋をしている時のそれを表現しているようでもあります。蒸し暑いのが好きな人っていないと思いますが、そうじゃない状況にいて客観的に見る分には、こんなに甘美なムードになり得るんだと、私はこの映画で知りました。

 この映画は物語らしい物語は無く、5人の男女の愛憎を描いた言わば群像劇なのですが、5人が5人とも微妙に重なり合ってはいても、誰一人恋が成就することはありません。自分を捨てた男を憎みながら、夜になると男の家の前まで行かずにおれないスー(マギー・チョン)、それを見守る夜回りの警官(アンディ・ラウ)など、この二人がくっつきゃいいのに・・と思う組み合わせが幾つもあるのに、どれもそうはいきません。

 この映画を見て、主人公の一人レスリー・チャン演じるヨディを許せないと言う女性は結構いると思います。が、私は女性達の意見とは全く逆の意味で彼が許せず、それには多分に羨望が込められています。

 美女を口説き、関係を持ち、その後は女をまるでモノのように扱うヨディ。そして、うっとり夢見心地でいる女に『床を拭け!』なんて、掃除婦に命じるように言ったりしますが、女達はどんな酷い仕打ちを受けても、もう彼を愛することを止めることはできません。

 近頃の日本の映画、テレビ・ドラマなんかで作られる恋愛ものは、ほぼ100パーセント女性に振り回される男、つまり女性がコントロール可能な存在としてのペットのような男性が描かれているので、それに慣れきった目でこの映画のヨディを見ると、私はいつも、おお、なんてお久しぶりなヤツと、女性達の内情を省みず思わず手を叩たかずにおれません。

 このヨディのような男を説明するのに昔は『不良』という便利な言葉がありましたが、現在の日本では『不良』は『ヤンキー』にとって変わられてしまって、本来とてつもなくカッコいいものだったという、その部分のみが駆逐されてしまった感があります。

 この味が出せる役者かそうでないかを見分ける一つのポイントがありまして、それは“悪”を演じられるかどうかといったその一点に集約されています。これをわが国の中に求めようとするならば、それは日本映画黄金時代の日活映画、石原裕次郎や小林旭まで遡らなければなりませんし(この『欲望の翼』を初めて見た時の印象は、最良の日活映画って感じでした)。それから時代が下がると萩原健一、沢田研二などがいて、役者ではありませんが、その最後の残り火のような“不良(ワル)”が故尾崎豊だったように思います。

 この映画の中のヨディの台詞に詩のような美しい言葉があります。

         

         脚の無い鳥がいるそうだ

         飛び続けて疲れたら風の中で眠り

         一生に一度だけ地上に降りる

 

 そう言って、勝手気ままに、欲望のおもむくままに生きて死ぬヨディ。最後は『真夜中のカーボーイ』のダスティン・ホフマンを想起させますが、最後の最後に実はそう酷い男でもなかったのかな、と思わせます。

 映画のラストにはなんの脈絡も無く、ワン・シーンだけトニー・レオンが出てきますが、ウォン・カーウァイ監督が本気でこの続編を作るつもりだったのがこんなところからも分かる気がします。

 女性に腕時計の針が一回りするのを見させ、その後、『19××年×月×日×時×分。僕がこの1分間、君といたという事実は否定できない。』と耳元で囁く。それが、1分になり、2分になり・・・・・蒸し暑い梅雨がこれから訪れようとするこの季節、かぶりつきたくなるような良い男が毎日訪ねてきて、こんな風に口説かれたら、女性のあなたはどうしますか?

 応じれば身を焼くような恋の地獄が待っています。拒めば・・・・・・息も詰まるような快楽なんて、一生味わえませんよ。

 

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コメント

『蒸し暑い恋』といえば僕の記憶するところでは
デュラスの『ラ・マン』です。(それぐらいしか思い浮かばない。)見てますなぁ。偉いね。

投稿: ほぴ村 | 2007年5月30日 (水) 00時57分

韓流がブームになる数年前にウォン・カーウァイを代表とするこれら一連の映画がちょっとブームだった。日本で一番有名になったのは金城武かな。今、どうしてんだろう。同じウォン・カーウァイ監督で彼が主演の『恋する惑星』もお勧めです。

投稿: ナヴィ村 | 2007年5月30日 (水) 06時05分

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