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ギブス

 

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首には様々な神経が集まっているらしい。以前、ヨガのとあるポーズだけを集中してやり過ぎ、アゴの関節に激痛を覚え口を閉じられず、あんぐりと口を開けたまま数日を過ごしたことがある。医者に行くと首を痛めていて、あごの痛みはそこから来ていると言われた。赤塚不二夫の漫画の古い古いギャグに「アジャパー!」というのがあるが、その時は街のショウウインドウに映る自分がまんまその時の顔をしているので、周囲に笑いを誘いながら、私は自身の運命を呪った。

 で、今回は「右腕」である。実は数日前から右上半身が痺れ、右手の指は全く感覚がない。職場のバイト君達にそのことを言うと、「テーブルの上に掌を大きく広げ、指の隙間にナイフを順番に突き立てていくゲーム、誰が一番早いかやりましょうよ?」と言われた。日頃の私の教育が良く行き届いている証のような発言で、私は余裕こいているかのように“ワーハッハ!!”と笑って見せたが、目が“怒りのアフガン”の時のランボーのようになっていたので、皆、周囲から居なくなった。

 しかし、優しい女性陣たちはさすがに心配してくれて、『大事に至らないうちに病院に言った方が良いですよ』と言ってくれた。嬉しい。バレンタイン・デイに義理チョコしかくれなかった子にも、来月、ちゃんとお返ししよう、とその時決めた。それで女性の意見を誰よりも尊重して生きてきた私は、早速、病院へ行くことにした。

                ☆

 初めに行ったのは病院というより家の近くにある「接骨院」である。以前、アゴを痛めた時、行ったところだ。しかし、数年ぶりに行くと建物はそのままだが、中はすっかり変っていて、しかも先生も変っていて、つまりは全く別の接骨院になっていた。で、入った途端、嫌な予感がした。待合室には顔は子供なのに体だけ異様に大きい、近くの大学の体育系の輩が大挙していて、「ウィッスー!!」なんて、先生に挨拶している。ガラス細工の美術工芸品のようにデリケートに、大事に大事に育てられてきた私が最も苦手とする雰囲気である。そして先生も若いが髭面で、なんか“赤ひげ先生”的なキャラを演じているが、まだそこまでの含蓄が備わっていない印象。接骨院の中はガヤガヤとうるさく、悪く言えば“ガキのたまり場”のようだった。

 私の前に治療していた若造君達が、痛みの原因を尋ねられ『ゴール前でのクロスプレーで、激突して・・』とか、『オオソトガリをかけた瞬間、逆に相手に、こう捻られて・・』なんて説明してたところに、私が『寝すぎで、首を寝違え・・・』と、言ったので、その瞬間、治療室内に笑い声が上がった。そして「ウィッスー!!」達の軽蔑の眼差しが一斉に私に集中した。そう、先日、インフルエンザで数日寝ていた時、私は家に19巻まである『のだめカンタービレ!』を7巻までしか読んでいなかったことを思い出し、熱に浮かされながらもこれを期に全部読破しようと、変な姿勢でづっと読み続け、それで首を痛めたのだった。

 原因が原因なだけに先生の治療もぞんざいだった。と言うか、そんな気がした。ピッピ、ピッピ、と電気をかけて、ものスゲー痛いマッサージをされて、首つり自殺を薦められたような強烈な牽引機に、数十分放置され治療が終了した。治療費を払って立ち去る時、待合室のイスで雑誌『ナンバー』のバックナンバーを読みながらバカ話していた「ウィッスー!!」達がまたまた私を侮蔑したように見て、私はやっと解放されたいじめられっ子のような気分だった。

                   ☆

 「○○整骨院に行ってみれば?」と、教えてくれたのは現場のAさんだった。確かに仕事が終わった後、2時間近くかかって家に帰り、地元の「ウィッスー!!」のたまり場に通うよりは、仕事場のすぐ近くの整骨院に行った方が合理的である。しかも、Aさんの話ではそこは先生が名医と誉れ高く、備え付けの機械も最新式、しかも看護婦さんが美人ぞろいで、新橋周辺のサラリーマン達には話題のスポット、ということだった。

 現在、私が新橋駅から虎ノ門まで真っ直ぐ歩いていくと、実にたくさんの人が様々な要望を言ってくる。先月の給料、有給の一日分が足りない、トイレット・ペーパーがない、カメラが壊れた、家のカギを失くした、来月結婚する、先月、離婚した、金貸して、等等・・・なんせ総勢120人もいる。その最高責任者と言えば聞こえが良いが、つまりは雑用係、相談役で、私はフムフムと聞いてそれぞれ対処するが、本当はとても面倒くさい。それで自分の地点の調査も同時にやらねばならず・・・携帯電話は常に鳴りっぱなしである。しかし、Aさんの話を聞くと、私は矢も盾もたまらず、仕事の最中であるが「緊急事態」と称して、携帯の電源を切ると「○○整骨院」の調査に向かった。

                  ☆

 ・・・・甘いバニラの香がした。待合室にはブルクナー「交響曲第4番ロマンティック」が低く流れ、イスはふかふかで座り心地が良かった。そしてすぐ私は汚い作業着で来てしまったことを恥じ、「イス汚しちゃうかな?」と、申し訳程度に言うと、「お気になさらないで下さい。」と、ピンクの制服を着た押切もえに極似の看護婦がにっこりと笑って温かいおしぼりをくれた。私は、ここは何をする場所だろう?と一瞬、訳がわからなくなったが、その後、私の友人の仙台のシンガーソングライターにそっくりの先生が出てきて、「今日はどういたしました?」と聞かれ、私はことの仔細を話した。私はインフルエンザにかかったこと、その時、変な姿勢で「のだめカンタービレ」をずっと読んでいたことなど、「ウィッスー!!」のたまり場での屈辱が甦ったが、先生ともう一人のピンクの制服を着た乙葉ちゃんに似た看護婦はにこにこと聞いてくれ、乙葉ちゃんは「あの漫画、面白いですもんネ。」とまで言ってくれ、私は涙腺が緩んでくるのを抑えられなかった。

 仙台のシンガーソングライターにそっくりの先生は初め、大きな掌で私の背中をゆっくり撫でまわし、それは治療と言うより、憑依した悪霊に「出て行け。」と言っているようだった。しばらく後、「首の第××骨が前方にずれ、そのため首のほにゃらら筋が何とかして、それがなんちゃら神経とかんちゃら神経を刺激して、こういった状況になっていると思われます。」と、詳細な説明をしてくれた。そして「ナヴィ村さん、説明してくれた原因以外にも、普段、ずっと下を向いてませんか?」と言った。

 私の職業は発掘屋である。天文学者ではないので、下を向いているのは仕事のうちだ。別に百円玉や五円玉や当たり馬券が落ちていないかを探しているわけではない。

 その辺のことをやんわり言うと、仙台のシンガーソングライターにそっくりの先生とピンクのもえちゃんと乙葉ちゃんは目をキラキラ輝かせ、考古学的な質問を色々と聞いてきて、もえちゃんはパチパチと拍手のポーズまでして、私のプライドを未知への高みへと押し上げた。それで私はマッサージされる前からとても良い気分になった。

 その後、温かいマットで患部を温めた後、電気治療とマッサージ、超音波治療などが始まったが、仙台のシンガーソングライターにそっくりの先生と乙葉ちゃんはまるで微に入り細に入り、ガラス工芸品のように私を扱ってくれて、それはまさに至福の1時間半であった。

 最後に仙台のシンガーソングライターにそっくりの先生は「本当は、痺れが取れるまで首にギブスをしておいた方が良いのですが・・・。」と、言った。私は友人や知人が以前、首のギブスをしている時の滑稽な様子を思い浮かべ、絶対に嫌だったが、ふと、横を見ると乙葉ちゃんはすでにギブスを手に持って、にっこりと笑っており、それは「この子の手で首にギブスをしてもらいたい!」というワンちゃん的欲望を瞬時に喚起させて、私は「ハイ。」と返事してしまった。

 それで、私の首には現在ギブスが巻かれている。巻いた瞬間「捕まえた。」と乙葉ちゃんが言ったような気がしたのは、得意の妄想で、実際は3000円で買取りになる筈のギブスを、「治ったら別に使い道ないですもんね?」と、先生に交渉して、レンタル料300円ということにしてくれただけだった。治療室の鏡を見ると、ギブスとそこから上の顔は、まるで晒し首の台とそれに乗っている首のようだったが、私はこのギブスを返しに来る時は、今度は絶対にもえちゃんの方に外して貰おう・・・・と決めた。

 ・・・・・と、これが、ここ数日、ブログに記事をアップできなかった理由です。手が痺れててキーボートが満足に打てませんでした。今、「ギブス」のおかげか、やや感覚が戻り、こうして記事をアップした次第で・・・でも、もえちゃんと乙葉ちゃん。

もう少し、このギブスつけていたいなあ。

 

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