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隣の物語

 私が良く行く書店で一昨日、通り魔殺人事件があった。最近、本は売れないから私の家の周囲の書店は次々と潰れ、それで休日に気が向くと京王八王子駅ビルの啓文堂書店に行くようになった。

 ビルにはタワーレコードも入っている。だから本屋とCD屋散策が何よりも好きな私には恰好のヒマ潰しスポットである。息子が探している本があると言えば一緒に行き、娘が探している本があると言えば一緒に行き、勿論、妻と二人で行ったこともある。だからほんのちょっとしたタイミングで私の家族の誰かが被害者になった可能性だって十分にあるわけで、そう考えると余計にショックが大きい。

 亡くなった女性は我が家から近い中央大学の学生で、なんと書店でバイトする前はやはりこれも我が家からすぐ近くのクリーニング屋で働いていたことも今朝の新聞で見て知った。私が礼服をクリーニングに出した時や、本棚にあるあの本やこの本やその本を買った時、レジで優しく応対してくれたのは彼女だったのかもしれないと思うとやりきれない。

 昔、N・Iが起した金属バット殺人事件や、新宿西口バス放火事件は大事件だった。本当にそれは社会を根底から揺るがす大事件だったのだ。今、親が子を殺し、子が親を殺し、誰でも良かったと言って誰かが誰かを殺すのは毎日のニュースだ。そして聞いている私も、不遜だが、慣れてしまった。

 昔から人間なんて同じようなことをしてきたのだと嘯く人もいるが、そうだろうか?こんな事件、私が子供の頃は、そうそうは無かったぞ。

 こういう事件があると必ず動機とか犯人の育成環境とかが取り立たされるが、そんなことを論じ合っても暴き立ててもあまり意味は無い。ただ、日本が一生大人にならなくて良い国になったということが一番の原因なのかもしれない。自立(経済的な意味だけではない)しなくても誰にも咎められない国に。

 唐突だが、世界中のネイティブな人々は人から“お話=物語”を聞くのが大好きなのが常なようだ。今読んでいるイサク・ディネセンの『アフリカの日々』にも書いてあった。彼らは文字を読まない代わりに物語る人の周りに集まっては熱心に耳を傾け、終わると、もっと話せとせがむ。彼等にとって物語を聞くということは想像力を養い、世界の実相に触れるための重要な行為なのだ。

 翻って、今は何もかもが散文的、映像的で物語性を帯びたものを味わい吟味する耐性がない。即物的な刺激と反応が満ちてあるだけだ。

 勿論、皆が本を読んだり、聞かせたりすればこのような事件が無くなると言いいたわけじゃない。ただ、本が好きで本屋で働いていた女性が被害者になったから言うのだが、

    おい、お前、隣の他人の物語に気付けよ。 

 

  

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日記・その他 (227)」カテゴリの記事

コメント

サリン事件以降でしょうか。
「卑怯」が「恥」を無視してまかりとおる世になったのは。
それまでは絶対的に弱い状況にある人を攻撃するなんて想像すらできなかった。
逃げ場の無い地下鉄で毒をまくようなことを。
それが現実に起きてしまった。そして卑怯者が蔓延る世界になったような気がします。

俺は亡くなった方のことを知る立場にあるので詳しいことは書けません。
ただ、現実の物語があまりに強く胸にせまり悲しいので泣いています。
犯人にいくら怒りをぶつけても彼女は戻ってきません。
いくら泣いても彼女は戻ってきません。
それでも俺は泣いています。

昔は男の涙も恥だったと思います。
でも悲しいときは泣くべきだ、と思います。人前では泣きませんが。

楽しくて笑えることが少しでも多い世の中になるように!
死ぬと生き返らないから、毎日必死で生きています。かなりいい加減でブザマですが…そこから笑いが生まれることを信じてます。

投稿: jazz坊主 | 2008年7月25日 (金) 01時49分

昔は16,7の少年が家族や国を守る為と言って自ら死んだ。そんな時代が良かったとは決して言わないが、逆説的に戦争の時代こそ人が命を最も大切にした時代とも言える。皆、自分や隣人の命の意味をいやおう無く考えたろうから。
 今は平和ボケとよく言うが、俺は敗戦国の60年後の哀れな末路のように見える。地方から出てきて一生懸命働いている女の子を30を過ぎたいい大人の男が殺すって、俺は右翼ではないが、昔の英霊達が見たら泣くぞ、てめーっと言いたい。

 そうか、知人だったのか。俺は親族であれ、友人であれ、殺人によって誰かを亡くした経験は無いので、そのショックと怒りはいかばかりかと思います。

 いいじゃない、泣いたって。人間なんだ、忘れちゃ困るよ・・・て、拓郎の歌にもあるし・・さ。

投稿: ナヴィ村 | 2008年7月25日 (金) 04時59分

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