« 2008年8月 | トップページ | 2008年10月 »

王さん、お疲れ様。

Photo_4  王、とは呼べない。王(ワンちゃん)なんてとてもとても。だから私は妥当なところで“王さん”と言う。もし、目の前に本人にがいたり、多少知り合いだったりしたら間違いなく“王先生”と呼んでしまいそうで、それはもちろん学校の先生と言う意味じゃなく、“師”、英語にした時の“マスター”と言う意味に近い。

 弱いマリナーズの中でイチローは野球を個人技に変えてしまった・・・・と先日書いたばかりだが、実はイチローの前にそのような野球選手がいたことを日本人の多くは知っていて、それこそが王さんである。ただ弱いマリナーズの中でひたすらヒットを打ち続けるイチローと違って、王さんのホームランはダイレクトに勝利にリンクしていて、それははそのままジャイアンツをV9に導いた。だからその分“個人技”感は薄められるが、でも子供の頃見た王さんの打席は、その時だけ何か別の種目のようだった。

現役時代の王さんの凄さを伝えられる言葉は無い。世界で一番ホームランを打った人、と言うだけじゃ足りないが、説明を求められればそう言うしかないのだろう。村上龍はエッセイで、ダイエーの監督に王さんが就任したばかりの頃、せっかくチャンスなのにピッチャーの打席に送る代打がいなくて、王さんが困っているのを見て「あなたが打てば良いじゃないか!!」と思わず叫びそうになったと書いていたが、確かに引退して何年しても彼が打席に立てばホームランが出ると言うオーラは、そこらの現役の選手より全然あった。

考えてみると王さんは不思議なスーパースターだった。私が子供の頃は「巨人、大鵬、卵焼き」ならぬ「猪木、具志堅、王貞治」という感じだったが、アンダ、コノヤロー!とかチョッチュネー・・・とか、猪木や具志堅の真似をする奴はいても、王さんの真似をする奴なんかいなかった。ピンク・レデーに歌われても何しても本人は至って冷静で、超然としていて、そして黙々とホームランを打っていた。

 そして引退試合も私は確かに見たが、長島さんの引退試合は今でもしっかり覚えているのに王さんのそれは覚えていない。王さんに関しては一本足打法でホームランを打っている姿しか記憶にないのだ。きっと子供の頃の私は見蕩れていたのだと思う。完成されたものの美しさに。そして、王さんはその完成美をいつまで持続していられるかという特殊なゲームを自らの人生に課している人のようだった。

 王さんは毎年大体、平均50本ホームランを打っていて(若い人はダブルで分からないかもしれないが、欽ちゃんと二郎さんの“コント55号”というコンビのネーミングは王さんのその年打ったホームランの数からきているのですぞ)、最後の頃は30本位しか打てなくて!現役を引退した。

 イチローと王さんは似ているな。二人はバッターと言うより、“剣豪”って感じ。WBC世界一は二人の剣豪の勝利だった。そして長島さんと王さんのスーパー・スターぶりは全然違くて、王さんのそれは長島さんのそれより、もっと悲惨がない混ぜのものに見える。(長島さんにも勿論、悲惨はあるだろうけど、本人のキャラがポジの部分しか感じさせないんだよな、うん。)

 今年のホークスはダメだった。王さん辞任表明後の昨日の試合すら勝ちで飾れなかった。松中も小久保も不甲斐なさからか泣いていた。でもね、失礼を承知で言うけどそれも王さんに相応しいかった気がするよ。予定調和じゃないところが。勝負の奥の深さを散々味わった王さんは負けが必ずしも負けじゃないことを良く知っている筈だから。

敵と戦う時間は短い。自分との戦いこそが明暗を分ける。

        by 王貞治

 私は息子に自慢していることが二つある。それは現役時代の長島を見たこと。

 そして、もう一つが王さんのホームランを見たことである。

 王さん、お疲れ様でした。 

| | トラックバック (0)

晩夏 1991


砕かれた光が散らばり
地球の夏はいつも
瞳に焼きつく緑と はじける水の音

遠く
失われた過去から
言い伝えられた秘密を
口ごもりながら未来へと
吹いていく風

ここは二十世紀の草原
宇宙飛行士の胸の鼓動は
インディアンのドラム

ここは
二十世紀の浜辺
墜落したUFOの残骸を
原始人のぼくと
猿が見てる

夕暮れの空の片隅で
三日月はYogaのかたち
ゆっくりと舞踏家みたいに
背筋を伸ばす川

夏の終わりはいつも
手つかずの宿題と
遊びつかれた少女の耳に

子守うた
のように
鳴く ひぐらし

 

 昔、書いた詩が出てきた。これを書いた頃は吉祥寺に住んでいて、何の展望もなく一日一日を生きていた。気楽さと不安が入り混じった変な感じだったが、僕は世紀末をこんな風に感じていたのだろうか。インディアン文化にイカレていた時代。現像できない写真を何枚も撮った時代。

|

« 2008年8月 | トップページ | 2008年10月 »