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『影武者』~映画という戦争

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販売元:東宝ビデオ
発売日:2003/01/31
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 食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋・・・実は先週の金曜日まで、私は今週末が3連休であることを知りませんでした。

 忙しさにかまけて・・・と言えれば少しはカッコもつくと言うものだけど、本当はルーティーン化した日常を淡々と送っていただけというのが現実で、今週は土曜日休めるかな?と思っている程度でした。だからこの3日間は思いがけずたっぷり時間があるのに何の予定も無い、という嬉しい誤算の中にいます。

 普段は、このような機会に恵まれたら是非やりたいということが山ほど頭の中を駆け巡っているのですが、いざとなると何も思い浮かびません。唯一覚えていて実行可能なことは「映画を見る」ことですが、最近、休日の早朝に映画を見る習慣が途絶えて、あまりレンタル屋にも行かなくなっていました。で、昨日、久しぶりに某レンタルショップに行ったのですが、洋画・邦画ともに数多の新作があってどれを見ていいやら少々、食傷気味に。映画って、無駄に作られ過ぎていないだろうか?

 借りるの止めようとも思いましたが、見たつもりになって実は見ていない名作というのが一杯あるはずと、気を取り直して借りてきたのがこれ、黒澤明監督の『影武者』です。

 少し前に発売されたショーケンの自伝は読み物として非常に面白くて、今でも度々手に取りますが、様々なエピソードの中でもこの『影武者』撮影時の黒沢監督の話が最も面白くて、黒澤監督の映画作りに対する異常とも思える執念には度肝をぬかれました。

 役者が重い甲冑と本身の刀に慣れるまで何ヶ月もカメラを回さない。また、そんな衣装でショーケンが馬から飛ばされ海に沈んでも意にも介いさず、馬の方を心配してみたり、新幹線を止めたり、絶対カメラに映りっこない遥か遠くの電柱にまでカモフラージュの木の枝を取り付けていたりしたそうで、そのような異常な日々の中で、ショーケンは段々と武田勝頼になっていきます。

 一番凄いエピソードは長篠の合戦のシーンの時、雑兵役の阿藤海の目に本物の槍が突き刺さって目玉が落ちそうになる事故が起き、驚いたショーケンが撮影をストップさせると、監督が激怒したというもの。ホントかよ(笑)。幸い、阿藤は失明をまぬがれたものの、その一事をもってしてもいかにこの時の黒澤明の映画作りが鬼気迫るものだったかが分かります。

                                        ☆   

と、裏話的なものはさておき、映画のストーリー自体は有名な“武田信玄の影武者”のお話です。自らの死後3年間は周囲にその死を隠せ、との例の遺言と、偶然、信玄にそっくりな盗人。彼は余りに瓜二つな容姿から、本来逆さ磔(はりつけ)の刑に処されるところ、信玄の影武者として生きることを許されます。

 この盗人、ただ1度だけ会った信玄に魅せられ、紆余曲折を経てなんとかその役をこなそうとするのですが、その間、偉大な父にコンプレックスを抱き、その上この盗人を父として崇めねばならぬことを不服とする勝頼と、なんとかこの影武者で難局を乗り切ろうとする信玄の重心達の間に確執が芽生え始めます。そしてついに、長篠の合戦で・・・・・。

 この映画、信玄と影武者である盗人を仲代達也が演じていますが、本当は勝新太郎がやるはずだったんだよね。その辺の降板劇の真実も先ほどのショーケンの自伝に書かれていますが、私はこの黒澤映画の中で勝新を見たかったなあ、と心底思いました。今頃そんなこと言ってもしょうがないんだけど。

 で、代役に立った仲代達也ですがこれが素晴らしい。英雄信玄と下賎な盗人を仕草や表情で巧みに演じ分けています。盗人が威厳のある信玄を演じようとするところをまた演じるというのはかなりの難易度と想像しますが、それを立ち振る舞いの違いを細やかに演じ分けることで表現していて見事でした。

 次に我がショーケンですが、異常なテンションの中で行われた撮影のせいで、「本当に頭がおかしくなりそうだった」と自伝で何度となく述べていますが、確かに「イッチャってる」目をしています。後年、故松田優作がハリウッド映画『ブラック・レイン』で演じた悪役佐藤を評して、彼は「優作め、また人の真似しやがって・・・。」「あれは勝頼の目だ。」と言っていますが、確かにあの目です。この武田勝頼の狂気を孕んだ役が後年NHK大河『元禄繚乱』の綱吉、また『利家とまつ』での明智光秀になったとのことで、早くその“狂気を孕んだ”演技でスクリーンに復活して欲しいと、また思いを新たにしました。

 この映画、ストーリーや役者の演技もさることながら美術が素晴らしくて、それを見るだけでも「芸術の秋」に相応しいです。それと“長篠の合戦”。これはホントの長篠の合戦をタイムマシーンに乗って見に行ったかのような迫力です。“「歴史上の戦争」と「映画という戦争」がシンクロして作り出したスペクタクル。

 そう考えると役者って、兵士そのもですね。

 

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» 『影武者』は勝頼でしょう。 [未来を夢見てる~日陰の映画が好き~]
本日のショーケン。 影武者普及版 ¥2,993 Amazon.co.jp ででえええん。 世界のクロサワですよ。『影武者』。 1980年公開の作品です。 これは当時、もーのすごい話題になりました。 なにしろ、長く(日本で)映画を撮っていなかった... [続きを読む]

受信: 2008年10月14日 (火) 14時49分

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