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光へ~四歳の誕生日に


母さんは泣いたよ
痛くって 苦しくって
父さんは母さんが死んじゃうんじゃないかと思って
ただただ恐かったよ

お前も泣いていたよ
血と羊水の暗い海から生還した
難破した船の水夫みたいに
安心したのか
それともこの世界の 
時に恐ろしい表情を感知したのか
すっかりその一員である父さんには
お前が何故か
小さな 怒れる神様に見えて
なんだか叱られている気がしたよ

そう お前は
その日生まれた凡庸な幸福の一つ
でも 父さんには
初めて目にする奇跡だったんだよ

父さんも泣いたよ
声は出さなかったけど 
涙が流れたよ

光 その時からお前は父さんの一部だが
それは父さんの思い上がりだ
いつか その思い上がりにお前が抗う日がくることを
知っているから
親ってさみしい仕事だなって、なんだか今から
酸っぱい気持ちになるよ

お前が生まれた日
1994年10月2日
父さんは泣いたんだぜ

嬉しくって    

 

 

 今日は息子の十四歳の誕生日。だから上の詩を書いてからちょうど10年経ったことになる。私にはもう彼を自分の一部とするような思い上がりなどとっくに無くて、今はただ毎日を健康で楽しく生きてくれれば良いと、それだけを願っている。

 

 息子は今陸上部の短距離の選手で、日々コンマ何秒かを縮めるために悪戦苦闘している。まだまだ子供だが、時々ふと「男」の顔をすることがあって、そんな時はなんとなく頼もしくもある。

 

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 余り小説の類など読まない息子くんだが、今度本屋でこれを見つけたら彼に買ってやろうかと思う。他のかもめにとって「飛ぶ」とはただ餌をとるための手段に過ぎないのに、群れから離れ、一人(一匹)ただより速く飛ぶことにのみに情熱を傾けるこのかもめの物語を。

息子君 十四歳の誕生日おめでとう。

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