初めての歌舞伎ー盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)
少し前のことになるが、2010年の4月に歌舞伎座が取り壊されるとのニュースを聞いた。なんでも老朽化が進み、耐震性やバリヤフリーの観点で見ると問題有りで苦渋の決断とか。
で、その是非はともかくとして、1度も生で歌舞伎を見たことが無い私はこのニュースを聞いて、見るなら是非今の歌舞伎座で、と、真っ先に思った。幸い、私の現在の職場から歌舞伎座はすぐ。しかも私の隣の席の女性は大の歌舞伎ファンで、色々と鑑賞の手引きとなるような本を貸してくれる。それで、ここのところいそがしい合間をぬって、休憩時間等にそれらの本をなんとなく眺める日々を過ごしていたが、ついに本日、妻を連れたって歌舞伎を見に行くことにした。
昨日、11月1日は『歌舞伎座百二十年~吉例顔見世大代歌舞伎』の初日で、今日は二日目。演目は昼の部 1.盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ) 2.廓文章(くるわぶんしょう) 夜の部 1.菅原伝授手習鑑~ 寺子屋(てらこや) 2.船弁慶(ふなべんけい) 3.八重桐廓噺(やえぎりくるわばなし)の五つ。今日、私達が見たのは『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ』。
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歌舞伎って見るのに一体幾らかかるのか?もの凄く高いのでは?と思っている、私と同様な初心者の方、ご安心を。上に紹介したような演目一つを“一幕”として、最上階の「幕見席」で見るのなら、一幕がだいたい800円~900円。今日、私達が座ったのもこの幕見席。花道が余り見えない難点はあるが、観劇するには十分で、気軽に見れるので初めての方は絶対ここから始めた方が良いだろう。また、歌舞伎=難しいもの、といった先入観がある人は音声ガイドを利用すると、演目について場面ごとの細かい解説が聞けるので利用するのも手かと思う。これは1400円で借りられる(内1000円は保障料なので機械を返すと戻ってくる)。
本当は昨日まで、私は『船弁慶』を見るつもりでいた。源義経と静御前の別れの場面、荒れた海に平知盛の霊が現れて、弁慶が一心腐乱に祈る例のやつだが、何故、それが見たかったかというと、お話として知っているのがそれだけだったからだ。しかし、それがかかるのは夜の部。わざわざ休日の夜に出かけなくとも普段の仕事の後、新橋から都営浅草線を使えば一駅で東銀座、歌舞伎座の前までものの10分もかからないので、これは平日に見る機会もあろうかと、それで昼の部を見ることにした。
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今回の演目の簡単な解説がチラシに出ているが、今日見た『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』は読んでも良く分からなかった。しかし、見てりゃ分かるだろ、と、思い切って入ったのだが・・・これは凄かった。複雑な構成と展開は簡略された文章では良く分からなかったが、実際に見ると意外にあっさり理解でる。それで想像以上にディープな世界についつい引き込まれ、初め、妻と一幕目の「五人切りの場」で今日のところは帰ろうと話していたが、結局二幕目「愛染院門前の場」まで一気に見てしまった。
これは四代目鶴屋南北の作品で、公開当時は「暗い」と言われ不評を買ったとか。しかし、その後、また段々と演じられるようになって、今では『四谷怪談』と並んで南北の代表作の一つになっている。エロスあり、ホラーあり、それでいてコミカルで・・・そのうえ泣ける。忠臣蔵と四谷怪談がミックスされているような話と聞いて、故深作欣二監督の映画『新説四谷怪談』を想起したが、全くの別物。
芝居の最中、「音羽屋!」とか「萬屋!」なんて掛け声が上がって、最初、歌舞伎通ぶったどこぞのおやじが血迷って大声出しているのだろうと思ってたら、これは「大向」と呼ばれる人たちの掛け声。役者が見得を切る時や、見せ場の時にこういった掛け声が上がるルールがあることなども、見るほどに自然に了解されてきた。
さて、この『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』。特に私が気に入ったシーンは、片岡仁左衛門(私等の世代には片岡孝夫と行った方がピンとくるかも)浪人薩摩源五兵衛が自分を騙した小万の前に最後に姿を現し、全てが終わって雨の中を去って行くところ。効果音の雨音が効いて、本当の雨の中にいるようで、凄惨な場面の後の強烈な侘しさが我が事のように伝わってきた。地味なところだが、これは映画や普通の芝居じゃ味わえない歌舞伎ならではと思った。
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ところで、2010年にこの歌舞伎座、取り壊されて新設された後も「幕見席」ってあるんだろうか。今日見たような大作が一幕目と二幕目に別れている場合、この制度はとても助かるんだけど。一幕目で帰る場合も「二幕目は期間中に来て、後日、また見れば良い。」って気分でいられ、途中で帰ったって気にならずに済むから。それにとにかく安いし。
私はこの11月にもう一度歌舞伎座に行って、今度は『船弁慶』を見ようと思っている。想像以上にハマッテしまって、このブログにもう一つカテゴリーが増えないようにしなくちゃ、と思う。(『幕見席』とか。でも『外野自由席』ってのがあるもんな。二番煎じだな)。
それにしても鶴屋南北って・・・・凄い作家だ。
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