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映画『ラスト・コーション』~占領と被占領

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 やっと見た。巨匠アン・リー監督の『ラスト・コーション』。本国中国ではその過激な暴力シーンと性描写が検閲により大幅にカットされたゆえ、この完全版を見ようと香港に行く人々が後を絶たず、ちょっとした香港旅行ブームが起きた程とか。そして監督アン・リーは本作によって前作『ブロークバック・マウンテン』に次ぐ2作続けてのヴェネチア映画祭金獅子賞受賞の快挙となった。

 舞台は1942年、日本占領下の上海。抗日運動に身を投じた美しい女スパイが、日本の傀儡政権に協力する組織のトップを殺そうとする物語。しかし彼女は男の壮絶な孤独と苦悩に触れる程にいつしか彼に心を寄せるようになり・・・。

 この映画、上映時、雑誌などでその過激な性描写がことさら話題になり、特にこの映画で女優デヴューとなったタン・ウェイに注目が集まっていたが・・・これははっきり言ってトニー・レオンを見る映画だと思う。私はストレートに男なので、男の色気についてはイマイチ皮膚感覚で分からないところもあるが、女性ファンならずともこの彼の素晴らしさには惚れ惚れする。

 そして忠実に再現されたという当時の上海のセット。普通、こうした映画で上海の街のセットを作ると、例えば東京の雰囲気を出そうとして皇居のすぐ隣に東京タワーが立っている的な、ありえないものになっている例が実は多いそうだが、今回は資料を十分に集めた上に登場人物達が使う封筒にまで気を使うこだわりようだったとかで、その結果、当時の上海の絢爛さ、退廃、そして占領下であるという緊張感が伝わってきて、つまり画面全体がそれだけでなんとも危険かつセクシーなムードに包まれている。

 で、ぶっちゃけ話題になったセックス・シーンだが、正直に言ってしまうと、私、こういうのをずっと見たかった(笑)。全然、いやらしくなくて、とっても奇麗で・・なんてうわ言のようなやつじゃなくて、かといってAVみたいな即物的なもんでもなくて。何というか、それまでの互いの人生やバックグラウンドを持ってことにあたったにも関らず、それがみるみる粉々になっていくみたいな・・・・。

Photo  出色なのは、その初めてのシーン。タン・ウェイを殴り、チャイナドレスを破り、下着を引きちぎり、自らのベルトを抜いて、それで彼女を鞭打つトニー・レオン。圧倒的な暴力でこの美しい女スパイを彼が犯すのだが、この後、すべてが終わって、ベットに置き去られたタン・ウェイがね、また、いい。しばし呆然とした後、微かに微笑むのだ。これが実にいやらしい。

 で、2度目、3度目のシーンはね、ちょっと書けない。実際にやっちゃってるAVが、ちゃんとニーズに合わせた段取りと手続き的な“形”に終始しているのに対し、こちらは映画的だが非常にリアルな性交で、タン・ウェイのインタヴューを読むと、これらのシーンの撮影にかけた時間は12日間、監督の厳しい演出がちゃんとあったそうで、その甲斐あってか、素晴らしいシーンになっていると思う。

 さて、占領下の上海での、この男女の物語で監督は何を描きたかったのか。以下、アン・リーのインタヴュー記事から。

 原作小説でも、男女の性愛関係が「占領」と「被占領」という形で喩えられています。物語の舞台が日本占領下の上海に設定されている以上、それが政治状況の暗喩であることは言うまでもありません。また、二人の愛は、男が女を殺害することをつうじて、独占的な所有権を強く主張することによって終わりを迎えるわけですが、その一方、男の心が女によって永遠に「占領」されてしまったのではないかという点を、トニー・レオンが女を殺した後に呆然とベットに座り込むというラストシーンを通じて提示しようとしました。~月間プレイボーイ日本版2008年3月号より~

 昔も、ベルトリッチの『ラスト・タンゴ・イン・パリ』とか、大島渚の『愛のコリーダ』とか、性愛の濃さが現実を侵食していく様を描いた映画というのはあったわけだが、本作は上の2作に比べて政治的な論理を含んでいる。そして、ここからは個人的な感想だが、結局、「被占領者」の強さが際立って印象に残るのは、現実を反映していると思う。

 ところで、この映画には広東料理が辛い、辛いと言う所が何度も出てくる。高級官僚のマダムたちが物憂く麻雀に興じるシーンでの会話でのことだが、これ、何かの暗喩なのだろうか?このシーンを見て、私は当の中国人達ですら辛くて食べれない中華料理があると、その広さと多様さと奥深さに感じ入る程度にしか理解できなかった。

 そしてその広さと多様さと奥深さの賜物か、1万人のオーデションの中から彗星の如く現れ、世界中の男を虜にしたのがタン・ウェイ。

 セックス・シーンの重要性は、脚本を読んだときからわかっていたし、それをこなすのはプロの俳優として当然のこと。監督は、ディティールにとことんこだわるから撮影はもちろんラクなことはひとつもないけれど、私ももっといいものを目指す気持ちは同じだったから、苦痛はなかったわ。トニーも新人の私をプロの役者として敬意を払ってくれた。こんなふうに挑戦する機会に恵まれて、女優としてこんな光栄なことはないわ。~月間プレイボーイ日本版2008年3月号より~

 いやはやこんな才能が突然、出てくるんだから・・・なるほど中国は広くて、深い。

 PS ネットで彼女のロング・インタヴューを見つけました。興味のある方はどうぞ。

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