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映画『スラムドッグ$ミリオネア』~グローバリズムへの一撃

Lev_million   

 必ず君を見つけ出す。これは運命だからー。 

『スラムドッグ・ミリオネア』。これがアカデミー賞を総なめにしたのは、オバマ政権誕生と関係があるような気がする。アメリカ一国主義的なグローバリズムを推し進めたブッシュ時代だったら、きっと作品賞は『ベンジャミン・バトン』だっただろう(冗談。笑)。

 かつて故淀川長治氏はチャップリンの映画の何処が素晴らしいかと問われて、「食べること、働くこと、愛すること、それら人生に必要なことが全て描かれているところ。」と言ったが、この映画も正にそう。

 食べる為、愛する為、人生というリングで激闘を続けたスラム育ちの少年が、純愛に勝利するまでの物語。“リング”と言えば見終わった後、中学生の時『ロッキー』を初めて見たときのような感じになった。そう、これを『クイズ・ショー』に形を変えたインド版『ロッキー』と強引に言ってしまおう。

 1970年代のインド、ムンバイ。宗教対立からくる暴動で母を亡くしたサリームとジャマールの幼い兄弟は、その逃げ惑う惨禍の中で同じ年頃の一人の少女と出会う。名はラティカ。幼く無力な3人は一心同体のようになって盗みを働いたり、ゴミ拾いをしたりして文字通り犬のようになって生きていくが、ほどなくしてすぐ、スラムの子供を手なずけて物乞いなどをやらせ、ゆくゆくは犯罪の道具にしたてようとする組織に拾われる。

 そうとも知らず楽しく過ごす3人。だが、あることをキッカケにそこは危険な場所だと知って脱走を企てるが、この時、兄弟は脱出に成功するものの、ラティカ一人が置き去りになってしまう。

 ラティカに恋していたジャマール。そして、この時からジャマールの人生はラティカにもう一度会うこと、この広いインドの中からなんとか彼女を探し出すことに注がれるようになる。

                   ☆

Photo_2  インドにはカースト制度がある。それがどれ程のものかインドに行った事のない私には分からないが、この映画ではそれがアメリカ・グローバリズムによって持つものと持たざるものに分けられた現在の世界のメタファーになっているように見えた。

 クイズ・ショーの前半、司会者が、ジャマールがスラム育ちで今はコール・センターでお茶汲みとして働いていると知って露骨に卑下したもの言いをするのも今の世界が目指し、そのいき着く先を見るようで薄ら寒いものを感じた。

 そして、そのような偏見を払いのけながら問題に一つ一つ答えていくジャマールだが、教育を全く受けていない彼が何故、その問いのそれぞれの答えを知っているのか?どのようにして彼はそれを知るに至ったか?・・・。 

 偏見から最終問題の一歩手前でイカサマと疑われ、一度警察に連行されジャマールは拷問までされるが、結局、仕切り直しで番組は最終問題だけ後日ということになる。そして全インドが注視する中で彼が出した“ファイナル・アンサー”とは・・・・・・・?

                  ☆   

 この映画のもう一つの見どころは、それはムンバイの街。猥雑で聖と俗が入り混じり、パワーに溢れ、混沌とした都市。その片隅のバラックは空撮すると原色の洗濯物やらなにやらでポップな印象すら感じさせる演出で、シリアスな内容でありながら映画全編にエネルギーが満ち溢れているのは一つにこの街の捉え方にある。何より全編にわたってその場に居合わせているような臨場感が凄い。このムンバイでの撮影について監督のダニー・ボイルの談。

 「あの街は命を称えている。死も暴力もたくさん存在するが、生命力溢れる感覚に圧倒される。だから僕らは、それを、変えたり、コントロールしようとするより、むしろ、その生命力を捉えるために全力をつくしたんだ。」

 また“生命力”と言えば、この映画、子役たちが素晴らしい。うんこにまみれ、ハエがブンブンたかってホント汚らしいが、とても可愛い(笑)。幼少期、少年期、とあるが誰もが皆愛しい。ま、彼らのお茶目さ加減はアカデミー賞の授賞式でもう御馴染みになってしまったが。

 それと特筆すべきは音楽。担当は天才A・R・ラフマーン。確かこの映画、アカデミー賞では作曲賞と主題歌賞を受賞している。絶対あとでテレビで・・・とかDVDになってからなどと言わず、映画館で見たほうが良い。

                  ☆

 ブッシュ時代の完全なる終わりを告げる狂おしいまでの大傑作。原作はヴィカス・スワラップの『僕と1ルピーの神様』、監督は『トレイン・スポッティング』のダニー・ボイル、脚本は『フル・モンティ』のサイモン・ビューフォイ。

 ぶっちぎりで高純度の純愛&青春映画・・・・・・・生涯最高の1本は?と問われたら、今なら迷わず“これ”っと言ってしまいそうだ。その位ハマってしまった。

  

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