梅雨のオペラ鑑賞~レナード・バーンスタイン『ウエストサイド・ストーリー“メイキング・レコーディング”』
とは言っても本物のオペラはチケットが高いし、第一何を見て良いのか、全然知識もない。が、ある日、家の前の公園の掲示板に地域のある団体が“映像による音楽”と題してオペラの舞台のフィルム上映会を催しているポスターを見つけた。
私の住むH市の音楽連盟の会長M氏の解説が初めにあって、日本語字幕つき。第一回の前回はプッチーニの『ラ・ボエーム』で、その素晴らしさに夫婦共に感動し、それで毎回行こうと言うことになった。会場は我が家から歩いて5~6分の新しく出来たばかりのH山交流センター大ホールで、何しろ無料と言うのが良い。
で、本日も朝食を食べ、少ししてから雨の中、傘をさして出かけたのだが、本日の上映予定はレナード・バーンスタインの『ウエストサイド・ストーリー“メイキング・レコーディング”』というもの。
1957年ブロード・ウェイ・ミュージカルとして大ヒットし、また映画としても今や不朽の名作である同作だが、今日のこれは作曲者バーンスタイン自身が指揮し、本格的なオペラ歌手を擁してレコーディングしようとした1984年の歴史的セッションを記録した映像。
私と妻はてっきり映画のメイキングだと思って、ジョージ・チャキリスのように足が上がるか?など二人で馬鹿なことをしながら「え、ウエストサイド・ストーリーってオペラなの?」とか言って、何にも分からないまま家を出た。
会場は前回の『ラ・ボエーム』の時と同様、年配の方ばかりで、多分、私と妻が一番年少だった。そしてこれも前回と同様に皆さんお洒落な方達ばかりで、私と妻が中で一番がさつ者な感じだった。
bそれで解説の後、本編が始って5分と経たない内に私達夫婦は顔を見合わせた。見る内になんだか凄いものを見せられていることに二人とも気づいたから。それはまるで宇宙の創造に立ち会っているかのような映像で、もちろん、この場合、創造する神はバーンスタインだが、このおっさん、とんでもなくカッコ良かった。
この頃のバーンスタインはすでに見るからに爺さんだが、ニューヨーク・マフィアのボス風の彼はエネルギッシュで、機知にとみ、時に残酷で優雅、女性ならずともセクシーの一言。その彼が自ら書いた名曲の数々に、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったオペラ歌手達を導きながら新たな命を吹き込もうとする様は圧巻で、後半フォセ・カレーラスが『マリア』のOKテイクを歌い終えた瞬間は、私は不覚にも涙が出そうになった。
映画『ウエスト・サイドストーリー』を見たことが無いという人も今は多いと思うので簡単にあらすじを説明すると、対立する二つの不良グループの一方に属する青年トニーと、もう一方のグループに属する青年の妹マリアが恋に落ちるというもので、言わば50年代のアメリカ版『ロミオとジュリエット』と言ったところ。このレコーディングではトニーを若きフォセ・カレーラスが、マリアをニュージーランド出身でマオリの血をひくキリ・テ・カナワが担当している。キリについてのバーンスタイ談。
「キリの歌うマリア、というのは一つの夢だった。マリアはプエルト・リコ人の女の子だが、キリの声には暗さがあるだろう。マオリの血をひいているからね。これはとても感動的で、はまり役だと思う。それに高音で、女の子らしい、リリカルな響きがほしい時にもほんとうにそのとおりの声を出している。」(『ウエストサイド・ストーリー“メイキング・レコーディング”』レーザーディスク解説より)
私がこの映像を見て一番に感じたことは、歌手、演奏者、全ての人々が、皆この『ウエスト・サイド・ストーリー』の音楽を愛しているということ。上述したキリや、フォセ・カレーラスはじめ、これに関る多くが映画『ウエスト・サイド・ストーリー』にリアルタイムに触れた世代でもあって、例えばキリは青春時代、あるピアニストと許されない恋をしていて、彼の伴奏でそれらの歌を歌った、だからマリアの気持ちになれる・・というようなことをインタヴューで明かしていた。
そして、この物語を歌い上げるのに一番苦労して見えたのは、今や世界三大テノールの一人として押しも押されぬ大家になった若き日のフォセ・カレーラス。スペイン人の彼には発音の上で、とても難しい面があるらしくて、バーンスタインに何度もダメだしされる彼は痛々しくさえあった。そして、その彼に「譜面を見ているから間違えるんだ!俺を見ていろ!」と言い、口伝に歌のテンポを教えようとするバーンスタイン・・・・うーーん、すげえ・・・。
この上映会は毎回レーザー・ディスクで見ているようなので、今日、終了と同時にM会長にこの作品がDVD化されているか?と聞いたら、もちろんある、と仰っていたので早速、ネットで探したらあった。勢いYouTubeも見たらUPされていたのでその一端だけでもと思い貼り付けておきます。
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