“ジョン・ナッシュ型”競馬
もう先週の話になるが、私は生まれて初めて競馬をやった。第50回宝塚記念。
この歳で“初めて”というのが嬉しいが、キッカケは私が責任者を務める現場に競馬ファンが多く、休憩時間の彼らの話を聞いているうちに興味を覚えたからだ。
ある日、自分で競馬専門のブログまで立ち上げているというM君に挨拶がてら、「今度、俺にも競馬教えてよ。」と言うと、「何を言っているんですか!ナヴィ村さんの班にはIさんという“競馬の神様”がいるじゃないですか!」なる答えが帰ってきた。
私の仕事は現場作業で大体80人弱の人間が五つの班に分かれて仕事に従事する。私は全体の責任者でありながら自分でも1班持っていて、その“神様”は私の班の班長さんだ。
北野武が父菊次郎を評して「毎日判で押したような暮らしぶりで、仕事帰りに行く飲み屋も、飲む酒も、頼む肴もみんな決まっていた・・・。」と、以前テレビで言っていたが、彼もそんなタイプ。
下町育ちの江戸っ子で無口。毎朝、私が車で仕事場に向かうと、必ず某通りの某カフェのテラスに座りスポーツ新聞を広げており、そして新聞をたたむ時間も、そこを立ち去る時間も決まっている(多分)。つまり、昔はそこかしこに良くいた頑固者で、今の若い人にはただただ変人としてしか映らないようだが、私はその人柄に密かに愛着を感じている。数ある作業員さんの中で私が唯一年賀状を出したのは彼だけである。
そして、その“神様”に「競馬、いつもどういう風に買っているんですか?」と、聞くとある奇妙な返事が帰ってきた。
☆
ちなみに私同様、競馬をやったことの無い人に説明しておくと、馬券の買い方は幾通りかあり、例えば1着だけを当てるのを“単勝”、1-2-3着の馬を当てるのを“3連単”、選んだ馬が3着までに入っていれば良い“複勝”、順番はどうでも1~3着を当てれば良い“3連複”などなどがある。
私はそのことを聞いたつもりだったのだが、“神様”は私が「どの馬がくると思うか?」と聞いたのだと思ったらしく「競馬中継って8チャンネルでやるんですけどネ、今週から8チャンの×時からやるニュースのお姉さんが○△×さんから○□さんに変ったでしょ、それで8チャンがスポンサーの映画が今週から封切りになるんですけど、その映画の題名が『×××』、ちなみにうんちゃら通りとかんちゃら通りの角にあるビルの広告がソニーのだれそれからキリンのだれそれに変ったんですが、その二人の頭文字を並べると・・・ほうら、もう分かったでしょう?」と言って、ニヤリと笑った。分かんねえよ、そんなもん・・・・絶句。
それで、その思いつきによっぽど自信があったのか、なんと、昼休み、神様は“当たり”を取るのを前提に以前から欲しかったというCDコンポまで買ってきてしまった。あわあわあわ・・・。
☆
・・・と、以下、私の周囲の人達の競馬のやりかたを私なりにタイプ別にすると、大きく3つに分かれる(ような気がします)。
1 学究型・・・血統や過去のデータを綿密に調べ、勝ち馬を割り出していくタイプ。
2 グレート・マザー型・・・好きな馬をわが子を愛する母のように応援し、そこからバリエーションするタイプ。
3 ジョン・ナッシュ型・・・日常のあらゆる変化に目を配り、そこに“サイン”を読み取るタイプ。神様はこれ。
☆
ジョン・ナッシュとは映画『ビューティフル・マインド』で有名な実在の天才数学者である。精神にある病を抱えていてタイム誌の記事のアルファベットの配列に旧ソ連の対米核戦略の暗号が隠されているとの妄想を抱き、長年その解読に務めたジョン・ナッシュ。上の3の人の競馬のやり方とはまるっきりそれと同じで、良く言えば“インスピレーション”、悪く言えば単なる“妄想”である。で、初めて競馬をやるに際し、色々考えた挙句、私はこの“ジョン・ナッシュ型”でいくことに決めた。
宝塚記念当日、朝、私にはすでに心に決めた馬がおり、立川のWINSに馬券を買いに行こうと玄関で靴を履いていると、背後に妻。「何処に行くの?」と聞くので、馬券を買いに行くと言うと、突然、嬉々として、「やっと、あなたも競馬をやってくれる気になったか。」と言った。職人の娘で川口出身の彼女は競艇や競馬をやっている大人に囲まれて育ったらしく、抵抗はないらしい。それどころか新聞を見せながら私が買おうと思っている馬を告げると、しばらく新聞を睨んだ後、「あなた、マイケルが死んだことをどう思っているの?」と、一言言った。
そう、この日の前日、あのマイケル・ジャクソンが死んだのだった。その事実を、そのサインを、その天の配剤を、あなたはどう読み取り、このレースにどう反映させるのか?妻は私にそう問いかけたのであった。あああ、ここにもいたジョン・ナッシュ・・・。
それで買ったのが単勝マイネルキッツと、1-マイネルキッツ 2ーディープ・スカイ 3-サクラメガワンダーの3連単。マイケル=マイネル・・・・・ちょっと苦しいけどなあ。
テレビ中継は娘と見た。娘には以前「競馬でもパチンコでも麻雀でもギャンブルと名の付くものをちょっとでもやったら別れる。」と言われていて(本当にこう言われたんです。)、怒るかな、と思ったら一緒に見てくれた。で、結果は?と言うと・・・・・ま、言わずもがな、でしたが、高い額を買ったわけではないので単純に遊びとして面白かった。
☆
翌日、仕事場にいくと神様が当たり馬券のコピーを見せながら「ね?」と、一言言った。またまた絶句。で、こんなわけの分からん世界、今回限りにしようと思っていたら昨日、神様が私に近づいてきて「今週の函館、××ですよ。」と、ある馬の名前を囁いた。理由は?と聞くと「今週、だれそれが死んで、その人が北海道生まれでそしてこの馬に乗る騎手の名前が同じでその人の年齢が○歳で、どこどこのスーパーの・・・・・・」
うーーーーん、神様、難しすぎて私のような凡人には分からん・・・・です w(゚o゚)w。
| 固定リンク
「エッセイ・その他 (112)」カテゴリの記事
- 『Black Bird』のち『PS,I love you』(2022.06.01)
- 武相荘(ぶあいそう)に行った。(2019.09.16)
- 天津へ。(2019.09.01)
- イノカシラフラスコモを見に井の頭公園に行ってきた。(2019.06.19)
- 八年ぶりの実家。(2019.04.30)
最近のコメント