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16度目の歌舞伎~義経千本桜

Photo_6   私は去年11月から歌舞伎座に通い始めたが、昨日、ついに幕見以外の席で観劇することになった。まあ3階のB席だが・・・それでも・・長かった(笑)。ようするに初めて“中”に入ったのだが、それもこれも今回の芸術祭十月大歌舞伎<夜の部>の演目をじっくり見たかったからで、それが今回の『義経千本桜』。

 これは『仮名手本忠臣蔵』、『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』と共に義太夫狂言の三大名作の一つと言われていて、確か現在の歌舞伎座が来年取り壊されるのを機に行なわれたアンケート・“あなたの愛する歌舞伎”では『勧進帳』の次に選ばれていた。

 初演は延享四年(1747年)、竹田出雲、並木千柳、三好松洛の三者による合作です。平家滅亡後、後白河法皇から今度は頼朝を討てと密かに求められた義経の悲劇を描きつつ、その一方で義経に滅ぼされた平家方の武将、平知盛、惟盛、教経の三人が実はまだ生きているというストーリー。演題に“義経”の名を謳ってあるし、本人も勿論登場するが、これは今で言う“スピン・オフドラマ”的な要素が大きくて、初段から四段目まで様々な人物のエピソードが交差することで、全体の大きなドラマが構成される。

Photo_9  今回上演されたのは、逃げる義経が大物浦で船頭となった知盛に襲われるもこれを撃退し、知盛が守り育てていた安徳天皇を逆に託され保護するまでを描いた、“渡海屋”・“大物浦”と、そして義経の愛妾静御前と佐藤忠信(実は狐忠信)の道行き、狐忠信の本性が明かされ、初音の鼓とのいきさつが語られる 吉野山・川連法眼館(かわつらほうげんのやかた) の4幕。

“渡海屋”・“大物浦”だが、これは全体で見ると2段目にあたり、主人公は渡海屋銀平=平知盛だ。そして昨夜はこれを吉衛門が演じていたが、良かった。

『勧進帳』の弁慶他、私は彼を何度か見ているが、今の所外れナシといった感じ。偉そうに言ってなんだが、この人、歌舞伎役者として今一番“旬”なんじゃないだろうか。“渡海屋”は船頭に身をやつしての任侠溢れる芝居だが、一転、“大物浦”では義経にリベンジ戦を仕掛けるも再度敗れる知盛を艶っぽく演じていて、またまたシビれた。この人は声が良い。良くとおり、情感豊かでその時々の感情がダイレクトに伝わってくる。父清盛の非道が一門に三悪道の苦しみを与えたのだと瀕死の体で述懐する件や天皇との別れ・・などなど。そして碇を繋いだ縄に自ら身体を縛りつけ、断崖に身を投げるラストは圧巻だった。

                  ☆ 

Photo_14 そして休憩を挟んだ後は“吉野山”と“川連法眼館”。忠信に菊五郎、静に菊之助。普通、『義経千本桜』と言うと、この“川連法眼館”での狐忠信と初音の鼓の話、いわゆる<四ノ切(しのきり)>を思い浮かべる人が多いと思うが、上述したアンケートでこの『義経~』を挙げた多くの人は、きっとこの段のことを指してのことと思われる。

義経が平家討伐の恩賞として後白河上皇から賜った「初音の鼓」。兄弟狐の皮で出来ているということで、義経はこの鼓を貰ったことにより“兄を討て”の院宣を受けたことになる。しかし、実はこの鼓の皮は「兄弟狐」のものではなく「夫婦狐」のもので、この鼓が宮中から出た途端、親を慕うその子狐が一匹つきまとい始める。

“吉野山”はこの子狐が義経の家臣佐藤忠信に化け、鼓を預る静と道行するというもの。そして“皮連法眼館”では狐忠信はついに化けの皮がはがれ、親を殺され鼓にされた悲しい身の上を明かし消えるが、静がもう一度呼び戻そうと鼓を打つと音が鳴らない。ここがツボで、兄に追われる義経の運命とこの獣の親子の情愛が対比となって涙を誘う。この狐忠信を「源九郎狐」とも言いうが、「義経」は“きつね”とも読め、この狐は実は義経をカルカチュアしたものとも見ることができる。

Photo_15 菊五郎の狐忠信は期待していたのとはちょっと違かった(笑)。セリフ回しにしても動きにしても、もう少し“ケレン”が過ぎても良かった。その方がこの芝居の場合、余計哀しさが伝わると思うけど。また菊之助の静も美しかったが、1ヶ所セリフを言うタイミングが早すぎるように感じるところがあって、これも情感が伝わり辛く惜しい気がした。

                 ☆

夕方の4時半から始って終了は9時。実は昨日は初めて娘を連れていって、長くてどうかと少し心配していたが、イヤホン・ガイド片手に最後まで興味深げに観劇していた。良かった。

Photo_16 それと初めて中に入ったので、公演終了後、1階~2階、舞台その他を親子でまじまじと見てしまった。特に「花道」。3階席や幕見だと僅かしか見れなくていつも惜しい思いをしているが、実際、そばで見るとそんなに長いものではないのだな。いつも見逃している部分はそれほどではないのではないかと・・・少し、慰められた?気持ちになった。

で、娘が「ここが一番見易いと思う!!」と、指差したのは1階の桟敷席。確かに座敷になっていて食事を広げる卓までついていて楽そう。ここで弁当を広げ酒を飲みながら・・・って、この歌舞伎座がなくなる前に必ずやるつもりでいますが、でも高けぇーだよ、この席。

 ま、娘よ、お父さん、頑張るよ。。。。。。。。競馬。

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