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12ドルのローストビーフ

 前回に続きまたサリンジャーネタ。サリンジャーというと1965年に筆を折って以来、隠遁し、その私生活は全くの謎に包まれたままということになっているが、近所の人たちの証言よって晩年の暮らしぶりが少しずつ明らかになりつつあるらしい。

それによると印象は「物静かな田舎のおじさん」。あいさつにも気軽に応じ、選挙や町民会議にも参加し、買い物はほとんど町の雑貨屋で済ます。近所の教会の夕食会を気に入り、毎週土曜日にセーターとコールテンのズボンという姿でやって来て、必ず12ドルのロースト・ビーフを食べていたという。自宅近くの子供達と学校の話をして、自宅の庭でソリをしたいという申し出にも快く応じていたとか。

彼が暮らしたニューハンプシャー州コーニッシュでは町ぐるみで彼の私生活を口外しないことは暗黙の了解となっていて、尋ねてくる記者や旅行者に町の人たちはわざと森の中を教えたりしていたらしい。

どんな富や名声より無名性の日常のかけがえなさ。サリンジャーのこの話は私にそんなことを教えてくれる。

それにしてもコーニッシュの人たち、素敵だな。いつか映画になりそうな話。

 

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