最後の歌舞伎~助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)
最後の歌舞伎。と言っても現在の歌舞伎座での、ということだが。
このブログのカテゴリー“いろは歌舞伎”をクリックして過去のエントリーを調べると、私が初めてこの歌舞伎座にきたのは2008年の11月2日のことだから、以来、18ヶ月間、せっせと足を運んで、回数的には22度目の歌舞伎ということになる。
また、見たけど書かなかった演目もあるので、この間、この歌舞伎座で私は一体幾つの芝居・舞踊を見たのか?まあ、後でゆっくり数えてみようと思う。
で、過去に書いたものを一通り読むと、全然知らないジャンルの芸能についてよくもこうどうでも良いことをあーだーだと書き連ねるなあ・・・と、自分で赤面してしまうが、その一方で何か凄いものに出遭ったという喜びに満ちている風なのも事実で、まるで砂糖壺の中でのたうつ蟻のよう・・・この間の自分の興奮振りが手に取るようだ。
さてそれもこれも歌舞伎そのものがとてつもない鉱脈であったのは言わずもがなだが、今月の第3部“助六”が現歌舞伎座の最後の演目ということに。そして、これは優秀の美を飾るにとても相応しいもののような気がする。
正徳三年(1713)4月、第二世團十郎が演じたものがルーツと言われ、第七世の頃、今のような形になって、現在は市川家のお家芸“歌舞伎十八番の内”に数えられる『助六』。江戸の心情、華やぎを今に伝える祝祭的な演目だ。
昨夜は口上に今をときめく海老蔵。上のようなこの『助六』の歴史と市川家との関わりをしょっぱなに説明して、大いに盛り上げつつも場を引き締めると言った、なかなか良い口上だった。
その他の配役は助六に團十郎、揚巻に玉三郎、意休に左團次、通人里暁に勘三郎、かつぎ寿吉に三津五郎、くわんぺら門兵衛に仁左衛門、白酒売新兵衛に菊五郎・・・・とどこを見てもの超豪華キャスト。大向は常に声を上げ通しだった。
さて、團十郎の助六だが、さすが市川家のオーラと言うか、“お家芸”というだけあって良かった。歴代の團十郎が全てこうなのかどうか私は知るよしもないが、当代團十郎のセリフ回し、口調は一種独特で、でも、私はそれがとても好きなようだ。
玉三郎の揚巻は例の次元が一段引き上げられるような美しさだった。考えてみると歌舞伎の三大花魁である、夕霧、八橋、そしてこの揚巻を、私は全て玉三郎で見たことになるが、それぞれの女性のタイプ、自分なら誰が良いかなんて見ながらそんなことを考えてしまった。
で、昨夜、一番の盛り上がりは勘三郎。出てきただけでもの凄い拍手だったが、團十郎=助六と白酒売新兵衛=菊五郎に股をくぐれと言われて困る通人里暁を、アドリブを交え楽しく演じていた。團十郎に「あんた、私と同じO型になっちゃって・・」、菊五郎に「しのぶちゃん、おめでとうございます・・」、客席には「チケット取り辛くなっちゃたのに・・・ねばったねえ・・」などなど、そして、たくさんの夢を見せてくれたこの歌舞伎座にはさよならだけど、新しい歌舞伎座でまた夢を見よう・・・とのセリフ、ちょっとグッときた。
☆
私のこの歌舞伎への興味は、あるラジオがキッカケだった。その頃はまだ、現在の歌舞伎座が取り壊され新しい複合ビルの中に入るという計画に異を唱える声があって、なんとか残せないのか?と言った内容の放送だったから、私はまず建築物への興味から出かけて行って、それでそこで行なわれている芸にハマッテしまったという次第。
しかし、建物自体にも実は思い入れがあって、それは非常に個人的なことだが、私が幼少期に祖父母が営んでいた旅館にちょっと雰囲気が似ていた。勿論、あんな立派な建物ではなかったが、しかし、私自身がちびっ子だったので、相対的に今の歌舞伎座のように見えていた。特に、幕見に上るあの急な階段は、旅館の大宴会場へと上る階段にそっくりで、初めて行った時、軽いデ・ジャブ感に襲われた程。同じ戦後すぐの建物なので同じオーラを纏っていたということなのか、行く度、そんな懐かしさが味わえた。
昨夜は終わったのがPM10:00。ほぼ一日中並んでいたので、相当に疲れたが、出て来た時、この歌舞伎座では今日が最後と思うとちょっと『ニューシネマ・パラダイス』的な感傷に。
でも、この歌舞伎座、味わいつくしたぞ。一つの未知の芸能に、短期間にここま集中してのめり込むというのはきっともう一生ないだろう。それもこれもこの歌舞伎座だったから。
18ヶ月間、短い間でしたが、ありがとう。新しく生まれ変わったらまた会いましょう。
それまで、さようなら歌舞伎座。
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