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手、あるいは静止した惑星 to Lucie Rie

Lucie_rie      


轆轤(ろくろ)を楽器にして
独自のフォルムを奏で続けた手
<いや、違う
アルビオン・ミューズの
自宅兼工房のキッチンで
ケーキとコーヒーを準備する
老女のありふれた手 >

轆轤の回転は
惑星の自転に似ている
その時
作品を仕上げる彼女の手は
創世記の神の
それに似ている

<鉢や花器の形をした無数の星々>

伝統とは拒否するものではなく
服従するものでもない
それは生活の道具の中に
常に新しく在るべきもの

敬愛した物理学者への
オマージュである造形と
元素記号による暗号化された
釉薬のレシピ

ピンク ブルー イエロー
灰釉 白釉 熔岩釉

鮮やかに
世界を彩色せよ
何故なら 故国の想い出は
古いニュースフィルムの中で
戦争により
色を奪われたので

「私はただの陶芸家(potter)。
 作品は何も意味しない。」

小雨降るロンドン 工房の窓の中
忙しく歩き回る足音と
釉薬を調合する眼差し
そして
電気窯から
静止した惑星たちを取り上げる
亡命者だった老女の

賢明に生きた手ー

 

 

 今、国立新美術館で『ルーシー・リー展』が開催されています。先日、見に行って、すっかり魅せられてしまいました。毎日、買ってきた図録の解説や借りてきた評伝を読んでいるところ。

 

 6/20までやってます。私はもう一度、見に行く予定。

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吉祥寺

 

この街はトカゲの尻尾
追い詰められて切り離し 
あの時 
置き去りにした街

人ごみの中にいつも
ギターケースを抱えた君を探した街
土砂降りの雨の中、小銭をかき集め
焼き鳥を食べに行った街

初めてあの娘に贈るために
ピアスを買った街

働き疲れ
真夜中の丸井の壁で
煙草の煙が星空に昇るのを
いつまでも見上げていた街

朝の公園の池で
幻の魚が
ピッシャッ!と跳び跳ねる音を
聞いた気がした街

公衆トイレの掃除婦を
母に似ていると思った街

カウンター越しに高田渡のはなしを
歌のように聞いていた街

現像できない写真を
何枚も撮った街

   ★

昨日、こっそり街に出かけると
街の方がぼくを見つけた
インド料理屋がタイ料理屋に
画廊がコンビニになって
性転換手術をした人から
声をかけられたような気持ちになったけど
思い出は何も変らなかった

ぼくは公園のベンチに座り
おばあさんと散歩するトイプードルと会話した
昔 ぼくがバディ・ホリーのレコードを売った
中古屋で
今度は息子がエアロスミスのベストを買った


ぼくの妻になった女の子はピアスを外し
ガードレールの上でうたたね
あの時の女の子にそっくりの娘が
手で
「あっち 行って」と
ぼくを遠ざける


この街はトカゲの尻尾
追い詰められて切り離し 
あの時 
置き去りにした街


そして長い休みの中の一日
家族を連れて
ごめんね、と
言いに来る街

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