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第1集やっと読了。

アデン、アラビア/名誉の戦場 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-10) Book アデン、アラビア/名誉の戦場 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-10)

著者:ジャン ルオー,ポール ニザン
販売元:河出書房新社
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 池澤夏樹個人編集世界文学全集。バックナンバーを見ると前回の『アルトゥーロの島・モンティフィルモの丘の家』について書いたのが2009年の5月5日とあるから、もうかれこれ1年と3ヶ月以上、このカテゴリーについては放っておいたことになる。

 何故か。それは今回の『アデン・アラビア/名誉の戦場』が、感情移入と言う点でいずれも読むのに難しい?作品だったからだ。

 ポール・二ザンの『アデン・アラビア』については“僕は二十歳(はたち)だった。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない”という冒頭の有名な言葉は知っていたが、それ以降は難解な言葉の連続。自分の周囲に絶望と欺瞞を感じ、アデンなる地に旅立つ二ザンだが、その旅行記のようなものかというとそうではない。

 あとがき解説によるとこれはフランスにおける“パンフレ”というジャンルに属する読み物だそうで、言わば風刺的小論文。体制や知識人などを徹底的にこき下ろすことを目的としたもので、確かにこの本書の中で二ザンは最初から最後まで当時の体制、社会、自らが属する階級などにずうと怒っている。ホント、物凄く怒っている。

 例えば我がケルアックの作品が結果的に反抗の書となったのとは違って、この作品は明らかに反抗そのものを目的に書かれているところが凄い。しかし、その怒りに共鳴できないとついていくのが難しい面があり、その辺がわたしのつまずきの原因だ。

 第一、何故、二ザンはこんなにも怒っているのか?何をそんなに毒ずいているのか?それは二ザンがこれを書いた時代の背景・空気感を想像しないと理解できない。

 そして、ジャン・ルオーの『名誉の戦場』。これも『アデン~』とは別の意味で読むのが難しかった。前の『アデン~』を読み終えてから当然この作品へと向かうのだが、読み始めても『アデン~』が全然判らなかったという思いが強く、また『アデン~』に戻ったりしてちっとも読み進まず、考えるにこの『名誉の戦場』は随分と損な役回りだった。そして、小説の内容も三世代にわたるある家族の思い出や日常が流麗な文章で綴られているのだが、何故、この小説の題が『名誉の戦場』なのか後半までちっとも判らない。

               ☆

 この第1集10巻に収められた二つの作品の背景として共通しているのは第一次世界大戦である。そして、この第一次世界大戦というものがヨーロッパ人にとってどういうものかを知らないと、今回の二つの小説に限らず、理解できないものが世の中には数多ある気がする。

 当のヨーロッパ人にとって第一次世界大戦は、同じ大陸で同じヨーロッパ人同士が徹底的に殺戮し合い、それは、それまで歴史的に積み上げてきた価値観が完膚なきまでに無に帰してしまったと感じるほどの決定的な出来事だったようだ。

 「アデン・アラビア」について言えば、その後においてもまだ旧態然とした体制、あるいは新たに勃興してきた勢力が持つ新たな価値観の両方について二ザンは毒づいていて、、それが意識できると『アデン~』について少し理解がいくようになるし、またその怒りに対しても多少共感が持てるようにもなる。そう、この本は瓦礫に立つ男の叫び声のようなものだ。

 また『名誉の戦場』だが、この小説はなんの変哲も無い家族の日常の中に、その思い出や風景の中に、どんな風に戦争が跡を残しているかを巧に表現している。読んで私は、小さい頃自分の周囲にいた、戦争の時代を生きたであろう人々について考えた。

              ☆

 さて、一ヶ月、一冊のペースで配本され、それを読んで感想を書ければと始めたこのコーナーだが、一年余り手付かずにしていたら、第1集に限らず、2集、3集も全て刊行されていて予定は大きく狂ってしまった。この『アデン・アラビア/名誉の戦場』の刊でもって、第1集は全て読破したことになるが、これからは長い時間をかけて、手に入ったものから順不同でいきたいと思う。

 ありがたいことに今では某大型古書店でも見かけるようになっていて、財布的には大助かりだが、早速、手に入れたのは第2集8刊の『パタゴニア/老いぼれグリンゴ』。

 読まねば。 

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