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『Kitano par Kitano』 ~何度も生き返った男

Kitano par Kitano 北野武による「たけし」 Book Kitano par Kitano 北野武による「たけし」

著者:北野武,ミシェル・テマン
販売元:早川書房
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 過去を振り返って「あの時、自分は一度死んだんだな・・・。」と思える出来事って、程度の差はあれ誰にでもあることなのだろう。

 たけしが大学を辞め芸人になるため浅草に向かったのは一種の自殺だった、と語ったインタヴューを何処かで呼んだことがあるが、その後のフライデー襲撃事件やバイク事故など、彼は何度も死んでは何度も甦り、その度ごとにグレードが増していくという・・・一種の怪物のような人だ。そして「死」というものを起点にして世界を解き明かそうとする思想家・哲学者という一面もある。

 本書は彼を敬愛するフランス人記者が自国向けに行なったたけしへのインタヴューである。彼の語りをそのまま文章にした著作はこれまでも膨大にあって、その中で例によって時事的な事柄を様々に語りつくしている彼なので、これも内容的にはいつもの「たけし本」であろうと、初め私はそう思った。

 しかし、対フランス向けということなのか、日本の歴史や日本の文化・文化人について説明的にならざるえない部分があり、そこに、普段彼が絶対に見せない本性が透けて見えるようでとても面白かった。また自作の映画の一つ一つを本人がコメント・解説するというのも案外今までになくてとても貴重なものだと思う。

 本書のインタヴュー、内容は多岐に渡るのでいちいち引用は避けるが、私が個人的に面白いと思ったり感じ入ったりしたエピソードを幾つか挙げると、

 ・ワインについてもの凄い情熱を持っているということ。

 ・まだ、ツービートで毒舌漫才をやっていた頃から、彼には冷徹で暴力的な人物像を演じる資質があることを見抜き、熱心にそういった方向を勧めたのが大島渚だったということ。以来、彼はそのアドヴァイスを忠実に守り、テレビで殺人者の役を大当たりさせ、それが『戦メリ』に繋がったということ。

 ・黒澤明への想い。

 ・いつか高倉健に自分の映画に出てもらいたいと思っているということ。

 ・文化大臣になってくれと、もう何年も日本政府から要請されていてそれを断り続けているということ。

 ・ロシアではKitanoというとそれは『Dolls』の監督、という評価だということ。

 ・アフリカに学校を作っているということ。

 などで、まだまだあるが、そのいちいちどれを読んでも彼が本来、人への恩義や礼節を忘れない庶民感覚に根ざした良識人だということと、私達はいつもお茶の間で目にするので麻痺しているが、今の彼はもうとんでもないレベルまで行ってしまっている人という両方が分かる。

 良く映画好きの友人と「フランス人ってなんであんなにたけしが好きなんだろう?」と話題になることがある。本書にも「ヨーロッパ人はオレを買いかぶりすぎている。」との本人の発言があるが、その人気の正体はどうしたって「知性」ということにつきるのじゃないだろうか。

 彼は民族性や政治的なイデオロギーに左右されない本当にオリジナルな思考と視点を持ち、名作から駄作まで誰も見たことの無いような映画を撮る。ピアノとタップを練習し、絵を描き、数学と物理学を愛し、良い映画を撮るための数式が必ずある筈と断言する。日本人は「世界のたけし」とか言って礼賛するフリをして、逆説的にこの男を見くびりすぎているんじゃないだろうか。だいたいソフィア・ローレンに握手を求められる足立区出身の芸人なんてカッコ良すぎやしないか?(笑)。

 本書の中で私がもう一つ気になったのは彼が監督した『素晴らしき休日』という映画。これは映画についての愛を3分間で描いてくれとの要請を受けた世界の33人の映画監督が、それぞれ作った短編を一つにした『それぞれのシネマ』という作品の中一つ。カンヌ映画祭60回記念式典で上映されたもので、どの作品がどの監督のものなのかは2時間の上映後に分かるといった趣向。他に名を連ねる監督というとアンゲロプロスやヴィム・ヴェンダース、ロマン・ポーランスキー、マイケル・チミノ、コーエン兄弟、アキ・カウリスマキ、デイヴィッド・クローネンバーグetc,etcと、もの凄い顔ぶれ。その中でたけしは『キッズ・リターン』のワンシーンから着想を得た3分間の『ニューシネマパラダイス』とも言える素晴らしい作品を撮っているとのこと。レンタル屋にあるかな?どうしても見たい一つである。

 そして幸せについての考察。「いつでもどんなときでも、何か自分にやることがあって、しかもそれが好きだと思えること。」だってサ。なるほどな。そして、いつも好色でありたいと言っていて、フランス女性の間でカッコいいと言われていると聞くと、移住したい、フランスは偉大な国だと言っている。つまりフランスとは相思相愛と言うことか。

 さて、取り留めなく書いたが、最後に本書から「死」についての本人の発言。

「死には興味があるよ。死ぬっていうことそのものじゃなくて、往生する瞬間でもなくて、死が意味することに興味がある。死の意味がはっきりすると、人生とは何か、人生とは何を表すものなのかがわかってくるよね。」(本書353pから抜粋) 

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