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映画『ショート・カッツ』~カーヴァー的、Twitter的、トム・ウエィツ的

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 一週間前に財布を紛失した。それも現金、免許証、健康保険証、クレジットカード、銀行のカード等、一切合財は入ったやつを。

 気づいた瞬間は十分にうろたえたが、警察に届け、悪用されるのを防ぐための必要な手続きを全て済ませると、何故か奇妙にサバサバとした気持ちになった。重荷を下ろしたような、何かをリセットしたような不思議な気分。なにしろ今の自分には本人証明をするものが何も無く、このデラシネな感じ、懐かしいじゃないか。

 で、このオメデタさの極致とも言うべき風にしばらく吹かれていると、間もなく自分の脳内で全く別のことが始まった。

 それはどんな人間が財布を拾い、どういう行動に出るかについての物語が様々なバリエーションで次々と思い浮かんできて止まらなくなってしまったこと。パターンA to Zくらい。言わばイマジネーションの暴走状態だが、その上、そんな自分自身こそが短編小説の良いネタであることも十分に意識してしまって、その連鎖はまるでロバート・アルトマン監督の映画『ショート・カッツ』みたいだった。

               ★

E0040938_23585075  映画『ショート・カッツ』はレイモンド・カーヴァーの9つ短編小説と一編の詩を元にした群像劇である。カーヴァーの小説の映画化と言うよりは、それに材を得たコラージュで、カーヴァー的な世界を期待して見ようとする人は見事に肩透かしを食う。

 昨日、DVDを借りてきて久しぶりに見直したが、カーヴァーの小説のどれとどれが取り上げられているか9つ全てを言い当てることは出来なかった。思いつく限りでは『隣人』、『犬を捨てる』、『ささやかだけれど、役に立つこと』、『足元に流れる深い川』などで、詩の方はあまり読んでいないので皆目分からない。

 それぞれの物語を解体し、細かな断片にしてまた繋ぎ合わせること。一つの物語の登場人物がまた違う物語の中で違う役割を担っていて、なるほど、こういう風ににすれば複数の物語を一つに見せることができる。

 アルトマンはカーヴァーの小説の一つ一つの表層をそのようになぞることによって、アメリカ社会の自己完結的な、外部を失った状況を描いて見せた。登場人物たちそれぞれは自らのありきたりな日常に僅かに入った傷(ショート・カッツ)から浸入する“異物”によってしか生のリアリティを得ることができない。そして、それは人間の「人生」と呼ばれる時間の正体とさえ言えるのだ。

 登場人物は22人。それぞれが豪華キャストだが、私は個人的に『ささやかだけれど、役に立つこと』のパートでお母さんを演じているアンディ・マクダェルが良かった。『セックスと嘘とビデオテープ』で主役だったあの女優さん、最近、見ないけどどうしてるんだろう?

 それと我等がトム・ウェイツ。この人の場合、どんな映画に出ても自分自身を演じている。と言うか自分の歌の世界を演じている。もっと言うと、作り手が自分の作品の中の「トム・ウェイツ」的な部分をトム・ウェイツ本人に演じてもらっていると行った方が早いか。なんにせよ強烈な個性、そしてそれが本当は一番「カーヴァー」的な人物像だったりする。

              ★

 昨夜、妻が図書館から借りてきて読んでいた本は故飯島愛が様々なクリエイターにインタヴューしたもので、中で飯島はその著書『プラトニック・セックス』は、村上龍の『ライン』をパクったものだと本人に白状していた。が、それに対して村上龍は、あれはロバート・アルトマンの『ショート・カット』を参考にしたもので、そういうのはパクリとは言わない、と言っていた。

そして、私がこの映画を見ている時、私が何の映画を見ているのか分からない妻が隣の部屋で、その本の、その部分を読んでいたというのがとても『ショート・カット』的だと思った。

 で、映画を見てもう一つ思ったこと。それはTwitterのタイムラインのこと。これってとても『ショート・カット』的。と言うよりこの映画が「Twitter」的なのかも。だからTwitterにハマッテいる人はきっと好きになれる筈ですよ、この映画。

 で、で、最後に、早朝からウイスキーを飲みながら駄文を連ねる亭主に対して妻曰く「そんなろくでもないブログやっているくらいならちゃんと小説でも書け!」とのこと。「だから財布失くすんだよ・・・」とも・・・・・・・・・・・・・・・・。これっはやっぱ「トム・ウェイツ」的。

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