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秋の鱒釣り 



アメリカの鱒釣り Book アメリカの鱒釣り

著者:リチャード・ブローティガン
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 今日、仕事場の仲間数人で鱒釣りに行った。秋雨前線の影響でずっと雨だった先週、そして予報では明日からもまた数日雨と言うことなので、その間の束の間の晴れ間にピンポイントで予定を立てた自らの「晴れ男」ぶりに我ながら笑ってしまった。

Photo_3  場所は八王子市高尾にある『恩方鱒釣り場』というところ。釣りをしながらバーベキューもできる。十年くらい前に、やはり職場の人に連て来られて、すごく楽しくて、それで覚えていた。竿代は3150円。餌はイクラ400円、ぶどう虫600円。釣った魚は一人十匹までは無料で、塩焼きにしてその場でも食べられる。わた抜きやら串打ちやらは管理人さんがやってくれる。

企画者として参加者に私が付けた条件は“なんでも良いから一人一品、食べるものを何か持ってきて”ということ。すると酒類、肉、野菜等の他に、スペアリブの香草焼きやらフランクフルト、焼きそばの材料、まつたけ、手焼きのワッフル等、あらゆるものが集まって、見るからにゴージャスなバーベキューとなった。

私はダッヂオーブンで「ロールチキンのビール煮」というのを作った。鳥のモモ肉にスティック状のにんじんとインゲンを巻いてタコ糸で縛ったものを、ビールに固形スープの元を入れて煮るといっただけのもの。しかし、出来上がりは素材そのものの味が濃くて美味く、皆からも好評であった。

               ★

Photo_5  さて鱒釣りの方だが、管理人の話だと午前中に集中して釣った方が良いとのことで、その間は皆、真剣だった。初め、なかなか釣れなかったが、一人釣れ出すとバタバタと皆釣れ出して、しばらくした後にはそこかしこで歓声が上がていた。楽しかった。

 で、 釣れない時間、釣り糸を垂れている時、私が何を考えていたかというと、明日の競馬、スプリンターS,何が来るか?ということと、釣りをテーマにした歌にはどんなものがあるかということ。海釣りなら『北の漁場』やら『兄弟船』なんかがあるが、こうした渓流釣りを歌った歌ってそんな思い浮かばない。BOOMの『釣りに行こう』と吉田拓郎の『野の仏』くらいか。

 

 それと小説。小説にはヘミングウェイに代表される「釣り文学」というものがレッキとしてあるが、私がすぐに想起したのは題名もそのものずばりの、リチャード・ブローディガンの『アメリカの鱒釣り』。そして、先日取り上げたロバート・アルトマンの映画『ショート・カッツ』の中でもコラージュされていたレイモンド・カーヴァーの短編『足元に流れる深い川』。

ちなみにレイモンド・カーヴァーの小説『足元に流れる深い川』とはこんな話。

 ある三人の男達が連れたってキャンプがてらの鱒釣りに行く。釣りの最中、中の一人が水中に全裸の若い女の死体を発見するが、男達はせっかくの釣りの機会をふいにしたくなくてそのまま釣りを続行する。そして引き上げる数日後になってようやく警察に連絡するのだが、帰宅した夫にこの話を聞いて妻は精神に深い衝撃を受ける・・・というもの。

 この小説を初めて読んだ時、釣りを中断されることを嫌って目の前の異様な光景をやり過ごしてしてしまう心情にリアリティを感じなかったが、今日、わざわざ仕込んだ料理の数々をほったらかし、真剣に釣りに興じる仲間たちを見て、そういったこともあるのかもな、と素直に思った。男女問わず、人には狩猟本能というものがあるのだ。当初、バーベキューついでの釣りと思っていたが、意味は大きく逆転していた。

 結局、十人で行って釣った鱒は48匹。管理人さんは「少ない」と言っていたが、我々全員はとても満足だった。当初“PM3時くらいには引き上げよう”と言っていたが、楽しくて時間はあっという間に過ぎてしまい、結局5時まで現地にいることになった。

               ☆   

 中国の故事に「一生、しあわせでいたかったら釣りを覚えろ」というのがあるらしいが、今日、興じたのは管理釣り場での釣りで、言わば“やらせ”。しかし、人生の後半戦へ折り返しを始めた年令になると、自然と向き合う口実としてこれはやはり最高のものだと思った。帰り際、皆、口惜しそうに「絶対、また来ましょう」と言ってくれた。良かった。

酷暑で季節感を楽しむどころではなかったが、ようやく涼しくなった。素晴らしい秋の一日。また『釣りキチ三平』でも読もうかな。   

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