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『白夜行』~真っ白な闇

白夜行 (集英社文庫) Book 白夜行 (集英社文庫)

著者:東野 圭吾
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 映画を見る前にまずは原作を、と手にした『白夜行』。ページ数は2段組で506ページ(文庫本で851ページ)と長大だが、あまりの面白さにイッキに読んでしまった。そして一読してその内容もさることながら、私は東野圭吾と言う作家の力量に舌を巻いた。彼の小説の全てを読んだわけではないので分からないが、あらゆるところにこれが彼の最高傑作とあり、うん、多分、そうなのだろう、と思う。

 主要な登場人物の雪穂と亮司は小説中、一度も出会わないし、一度も互いに対する想いを口にすることもない。二人については全て第三者の証言と、関った人々の推測、そして執拗に事件の真相を追い続ける刑事笹垣の推理によって描写され、あとは読む者の想像力に委ねられるのみだ。

 作家は昭和48年に起きたある殺人事件の真相とその被疑者の娘と被害者の息子であるこの二人の関係を、一見無秩序とも思える小さなエピソードや事件を積み重なることによって次第にその輪郭を明らかにしようとする。

 その手法は良くあるミステリーの謎解きと言うよりも、二人はこうでしかありえなかった・・という、あたかも一つの型にスプレーを噴霧しその剥がした空白の形を見る絵のようで、小説でもこんなことが可能なのかと面食らうと同時に、『白夜行』という題名が読後、異様に迫ってくる思いがした。

 舞台となる昭和40年代後半から平成の世に至るまでの背景の描写は写実的。まんまその時代を生きた私にとってはまるで実在の事件のレポートでもあるかのようにリアルに感じた。例えば現役最後の年の長嶋の不振や、オイルショック、映画『ロッキー』の封切、インベイダーゲーム、スーパーマリオゲーム、聖子ちゃんカット等等だが、特に二人が犯罪の手口として使うその都度のPCや周辺機器の固有名詞が時代の流れをトレースしているようで、その辺りも上手いなと思った。

              ☆

 テレビドラマや映画にするとこの小説はどうしても悲恋モノという色彩が強くなる。確かに子供時代に悲劇的な出会い方をした二人が19年間、刑事笹垣が言う所の“ハゼとエビ”のように共生している状態は「恋愛」という形にあてはめると分かり易い。

 しかし、二人の関係は恋愛と言うよりもっと具体的な生きる手段である。二人は最初から「共犯」であり、子供時代にこの世界が明るくとも延々と続く夜、真っ白な闇なのだと教えられた二人は、その後、どんな人間関係に恵まれても互い以外の誰をも頼ることができない。

 自分の人生を振り返って、周りは明るくともずっと夜だった、と独白するシーンが雪穂にも亮司にも一度ずつある。全く別の時、全く別の場所で。上で互いに対する想いを二人が語ることは無い、と書いたが、その中で雪穂が、私には太陽に代わるものがあった、と言うところが小説中、唯一恋愛を匂わせるものか。亮司に至っては雪穂の人生を好転させるための巧妙かつグロテスクな犯罪の実行犯であり続けるそのことが愛の表明であると言えば言えなくもないが、言葉としては何も無い。

 だから私はこれを映像作品化する場合、完全に恋愛テイストを抜いた“犯罪(クライム)・サスペンス”として見たいと思った。過去にテレビドラマ化された時も現在上映中の映画も悲恋ものとして扱われているが、本当は全くの乾ききった犯罪映画としてあるべきで、見終わった後で、もしかしたら二人は・・・と想像させるものがいい。

 何故なら「愛」と言う部分のみがこの小説では「白夜」・「空白」なのであり、小説は実際そのような作りになっている。だからそこに拘ると本来これは全く映像化に向かない小説と言える。

 そしてもう一つ映像化するに難しいと思うのは雪穂という女性。この長大な小説を読むに読者を引っ張っていくのは偏にこの人物の魅力そのものにある。

この、男女問わずまともな世間に住む者なら誰も抗えない魅力を有しつつ、健全な女性美であればあるほど「悪」であるというのは一見映像化できそうできない。第一ふさわしい女優がいない。若き日の吉永さゆりくらいか、可能なのは。

              ☆ 

 小説は最後の一行までが素晴らしく、一読書人としてこんな凄い作品を今まで手に取らずにいたことは全くの不覚であった。

 傑作。

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