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さよなら

 

     年老いた太陽が
     いつまでも水平線に触れずにいる
     時計は止まったままで ぼくら
     ずっと夕暮れの中にいる

     あの時、きみにさよならを言って良かった
     二人が知らなければならなかったことは
     二人でいたら きっと知り得なかったことだから

     あの時、きみにさよならを言って良かった
     賑やかなお喋りを止めなければ
     貝殻の音楽に 二人は耳を澄ますこともなかったから

     白紙のページの砂の上の
     幾筋もの足跡がつくる幾何学模様
     上空を飛ぶカモメは
     そこに
     どんな物語を
     読み取とることもしない

   
     ビールの泡立つ音
     それは太陽が海に触れる音
     そして二人の
     長いさよならが終わる音

     きみにまた会えて良かった
     驚いたことに
     きみは未だ
     ぼくの今日に潜む明日

     きみにまた会えて良かった
     時計は動き始め 陽が沈み 夜がくる

     きみにまた会えて良かった

     あの時 
     きみに
     さよならを言えて良かった 

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こんにちは

 

     喫茶店の窓から
     駅前の群集を見て
     ぼくもきみも
     以前はこんな風だったのか
     と思ってみる

     色とりどりの傘をさして
     無言ですれ違う人々
     信号が赤になり立ち止まると
     顔見知りというだけでは
     向こう側の人となんだか気まずい

     人生のビデオテープを
     出会いの場面まで巻き戻して見れたなら
     初めて声をかけたのは
     果たして ぼくか
     きみか
     そして その第一声は何だったのか

            ★
     
     「マストロヤンニっていい男だと思わない?」
     「マストロヤンニって誰ですか?」
     「スイマセン、ライターお借りできますか?」
     「いいえ、ぼく煙草吸わないので。」

     ぼくらを他人じゃなくしたキッカケが
     ユーモアやウィットの効いた会話だった可能性は
     極めて低い
     運命の出会いとやらに見舞われた時
     大概 人は
     ただぼんやりとしているだけなので

     信号が青に変り
     人々がまた歩き出す
     その時
     すれ違いざまに1人の少女が
     小石のようにありふれた呪文を
     ぼくに呟く

     「こんにちは」

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おやすみ

 

     おやすみは“お休み”
     目覚めていると結局
     心は忙しく働いてしまうから

     夜 
     自分の居場所はそこにしか無い
     とでも言うように
     きみは眠る

     飲みかけのグラスと
     低くかけられたラジオの音

     なのに 夢の中でまたしてもきみは
     プッチーニを歌い
     料理に舌鼓をうち
     古代語で詩を吟じ
     ナスカの地上絵を辿る

     まるで目覚めた時 心をまた
     忙しく働かせるための
     準備でもするみたいに

     おやすみは“お休み”
     電車が通り過ぎる音がすると
     街が灯りを消す

     その訪れる闇の中で
     ぼくはきみの背中に
     指で
     世界中の名画を落書きする

     「おやすみ」
    

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