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こんにちは


喫茶店の窓から
駅前の群集を見て
ぼくもきみも
以前はこんな風だったのか
と思ってみる

 

色とりどりの傘をさして
無言ですれ違う人々
信号が赤になり立ち止まると
顔見知りというだけでは
向こう側の人となんだか気まずい

 

人生のビデオテープを
出会いの場面まで巻き戻して見れたなら
初めて声をかけたのは
果たして ぼくか
きみか
そして その第一声は何だったのか

      ★
     
「マストロヤンニっていい男だと思わない?」
「マストロヤンニって誰ですか?」
「スイマセン、ライターお借りできますか?」
「いいえ、ぼく煙草吸わないので。」

 

ぼくらを他人じゃなくしたキッカケが
ユーモアやウィットの効いた会話だった可能性は
極めて低い
運命の出会いとやらに見舞われた時
大概 人は
ただぼんやりとしているだけなので

 

信号が青に変り
人々がまた歩き出す
その時
すれ違いざまに1人の少女が
小石のようにありふれた呪文を
ぼくに呟く

「こんにちは」

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