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佐野元春の詩~『それを「希望」と名づけよう』

      

     それを「希望」と名づけよう
                      佐野元春


     街が揺れた夜、君はひとり無断で、
     市営プールに潜りこみ、身体を水に浸した

     そして暗がりの中、瞑想した

     人は時に、光に水に、雨に風に、感謝し、
     人は時に、光に水に、雨に風に、屈服する

     この闇の向こうに震えるのは
     誰か、嘆きの声

     同胞の不在は確かに不可解だ

     それはそうだ
     しかしどうだろう

     君は偽善の涙など流さないと誓ってくれ
     決まりきったお悔やみなど無用だと言ってくれ

     夜が明けて、そこにいつもどおりの太陽が照り、
     草木は首をもたげ、
     鳥たちは空を往く

     あぁ、美しくも残酷なクリシェ!

     一方で、
     君の身体の細胞ひとつひとつに染みいる光はどうだ
     傷だらけではあるが依然雄々しいその筋肉はどうだ

     そうさ、君は同胞の不在を気にかけているんだろうが、

     たとえば、
     偶然にも生き残った君の生を讃えてみてはどうだ?
     たとえば、
     生き残ったことへの幸運を噛みしめてみてはどうだ?

     不謹慎だとわめく偽善者を後に残し
     君が光を放つことで、友を弔うんだ

     それを「希望」と名づけていいんだよ

     余震は続く

     -----
     2011年 誕生日に寄せて
     佐野元春

 交通機関の麻痺、ガソリンの不足、計画停電の不徹底・・・今日、東京は大混乱だった。でもね、ネット上にせよ職場や街角のお喋りにせよ、文句や不満やあげ足取りはもうたくさんだ。今は、物理的にも精神的にも皆の叡智を結集する時じゃないか?

 今回のことは歴史上かつてないことで、地震の大きさから言ったら千年に一度のことらしく、誰もスムーズに事を運ぶノウハウなんか持ってない。平安時代から生きている政治家なんているのかい?

 今夜は6:20から10:00まで我が家は停電になるとかで、どうせなら楽しもうと娘に案内されてわが街を一望できる高台に二人で行った。私には初めて行く場所だったが、そこで街の灯りがローソクの火を吹き消すみたいに少しずつ消え、完全に闇に包まれる様子を見ようと二人で企んだのだ。

 だが、計画停電は実施されなかった。街の灯りの一つづつは依然輝き続け、今回の出来事が嘘のよう美しかった。

 ↑は昨夜、いわきの弟に促されて知った、今回の地震に際し佐野元春が書いた詩。佐野さんは9.11の時もそうだったが、W.H.オーデンと同様“危機の詩人”だ。

 言葉は人を貶め、自分が無価値な存在だと思い込ませることもできる。最悪な状況にある者に勇気を与えることもできる。

 あげ足とりはもういい。今は叡智を結集する時じゃないか?

 PS 弟夫婦は本日、いわきを脱出?したようです。

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