シャンクスの帽子~“NAKED SONGS EXTRA -PRAYER FOR TOHOKU”レポート
昨日、ユニクロでワンピースのTシャツを買った。青地に白で胸に ONE PIECE I'M GONA BE KING OF THE PIRATES ! とあり、ルフィとウソップとチョッパーが宣誓しているように並んで左手を挙げているイラストが描かれている。うん、気に入った。
しかし、もっと嬉しかったのはオマケについてきたステッカー。何種類かあるが、私が当たったのは、この長大な漫画の最初の名場面といえる赤髪のシャンクスが子供のルフィに帽子を預ける絵のステッカーだ。
ルフィが何度、自分も航海に連れて行ってくれと頼んでも絶対に連れて行ってくれないシャンクス。そして、友達を傷つける奴を許さない、と言い放ち、そのためのみに闘い、実際に怪物に腕を食いちぎられながらも子供のルフィを助け何事も無かったように笑っているシャンクス。そんな彼を見てルフィは号泣し、憧れる。いつか、このような男になりたいと。
ステッカーは別れ際、いつかシャンクスの一味を超える仲間を集めて、自分も海賊王になってやる!と叫ぶルフィに、立派な海賊になっていつか返しに来い、とシャンクスがルフィの頭に大切にしていた帽子を乗せてやるところで、長い長いこの漫画を貫ぬく哲学を説明する大事な場面でもある。
そして、私にとって、このステッカーは昨日という一日を説明するにとても象徴的なものだった。
☆
昨日の夜、池袋のギャラリーカフェatelier bemsterで NAKED SONGS EXTRA PRAYER FOR TOHOKU という、今回の震災に対するチャリーティイヴェントがあった。主に東北出身のアーチストを一堂に会してアンプラグドの弾き語りと詩の朗読をしようという試みで、福島県いわき市出身の私にもこのブログをキッカケにして出演依頼がきた。
これは元々、80年代後半~90年代初期にかけて我が兄貴分だった音楽ジャーナリストで自らシンガーソングライターだった故下村誠が東京都内のライブハウスで様々に企画していたイヴェントの意思を引き継いで、去年から友人のワッカ松さんが始めたもの。去年の秋に第一回があって、私はそのイヴェントパンフレットの文章を書いたのだが、その時、終わり際、「今度は出演者だからね。」と言われていた。が、まさか、こんなに早く、しかもこのような形で実現するとは思わなかった。
私が昨日読んだのは、
1 天動説
3 おはよう
4 祈る人
5 問い
の五編。詩を書く人間としての自分の態度を紹介するものとして1を、20年前、ビート文学の翻訳家で紹介者であった故諏優氏と反原発のイヴェントで一緒に読んだ時の作品として2を、シンプルなラブソングである3を、震災と津波で亡くなった人達を“数”ではなく、一つ一つがかけがえの無いパーソナルな悲しみであることを思い、母を亡くした時の、自分のパーソナルな悲しみの詩である4を、そして、とどまり続ける人、避難する人、東京に暮らし故郷を思う人、と、それぞれに生き方が異なってしまった自分と友人達を取り巻く現在の状況に向けて5を、それぞれ読んだ。
素晴らしいミュージシャンが会する中にあって、朗読のみというのは自分だけと聞かされていたので(実際はもう一人、MIOさんがいたが)、退屈じゃないかと心配していたが、皆、良く聞いてくれたと思う。良かった。ありがとう。
中で一番興味深かったのは、他の出演者の方たちが歌以外に一編自作の詩を朗読することを課せられていて、その時のそれぞれのコメント。
歌の「歌詞」ではない「詩」を書いたり読んだりするのは初めてで、やってみて違う想像力の発露があったする人や、歌を書くとき詞が先行するタイプだが、曲が気に喰わなくて没にしたものを“詩”として読む、という人もあって、音楽と言葉の関係を考える上でこれはとても面白いと思った。
私は逆。元々、バンドをやっていた時、作詞・作曲を担当していたが、作詞のヒントを得ようとして、様々な現代詩を覗いているうちに、音楽的な規制や訓練に不自由を感じて言葉だけになってしまったという人間。まあ、元は同じなんだけど。
そして、それぞれのアーチスト達が読む態度。歌うとなると皆キマッテいるのに、朗読となると気恥ずかしそうで、だが、それがとても良かった。あ、皆、東北人だなあ、と思った。そして、恥ずかしそうにして読まれたそれらの詩は、それぞれに素晴らしかった。良く“詩は東北、批評は関西”と言われるが、伊東さんの『雨ニモマケズ』の朗読が象徴するように、その読む態度も含め東北人にとっての詩の原点を見る思いがした。
そして、もう一つ。今後、このような集まりは増えるのじゃないか?という事。昨日、ギャラリー内は節電の意味もあってか、薄暗く、キャンドルを含めた照明だったが、とても良い雰囲気だった。震災以後、東京は暗くなったが、私たちはそれに伴ってアコースティックな楽器や肉声の響きがどれだけ人を慰めるかということを知った。
別にロックよりフォーキーな音楽の方が良いとか言う話じゃなくて、このような空間で今後の日本人は自分の表現や言葉を鍛え直さなければいけなくなるのじゃないのか、という事。もう、3・11以前の明るい照明なんていらない。R&Rだって元々は薄暗いガレージで汗と煙草の煙の中で演奏されるキッズ・ミュージックだったのだし。
最後に昨夜の出演者の方たちのそれぞれのブログのURLを記しておく。皆、多分、私より若い人達ばかりだと思うが、皆、初めて会った気がしなかった。失礼を承知で書くと、同じ学校の下の学年に確かこういう人がいたなあ、という印象。最後に全員と握手して別れたが、皆、懐かしい手の感触をしていた。
皆さん、ありがとう。また会いましょう。
ストウタカシ 福島県鮫川村出身 『ストウタカシのブログ』 http://ameblo.jp/stowtk/
なとちん 山形県山形市出身『Always&Always』 http://ameblo.jp/nat2010
MIO 東京都原宿出身 『MIO~リスペクト・ワールド』http://ameblo.jp/mio3034
夏紀 岩手県奥州市出身 『なつきのブログ』http://ameblo.jp/sunderich/
伊東 洋 岩手県盛岡市出身『Frank suger Blanket official Web site』http://pksp.jp/f-s-b/
八束 徹 福島県喜多方出身『八束 徹Web site』http://toruyatuka.web.fc2.com
☆
昨日は会場に向かう電車の中、新聞で村上春樹のカタルーニャ文学賞受賞のスピーチというのを読んだが、その中で印象的な言葉に「今後、日本人は非現実的な夢想家にならねばならない」というのがあった。私にとってのシャンクスである諏訪さんと下村さんも、村上春樹が言うところの「非現実的な夢想家」であった。
私にとって「詩」は非現実的な夢想家であるための手立てであり、二人のシャンクスから預かった“帽子”である。
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コメント
なんとびっくりしたことに、全く同じTシャツを昨日買いました!そしてステッカーもシャンクスの帽子でした!(@-@)シンクロ?。ちなみに息子はヒルルクの旗を振るチョッパーのを選んでいました。鬼太郎のマグカップといい同じ日に同じ物を買う事が続くと、本当は三つ子だったのかしら?とドキドキしちゃったりして(笑)。
会社に着ていく時は気をつけなくちゃ。
震災に関しては、あちこちでぽつぽつと募金するくらいしか出来ないでいて、原発に対しては日々のニュースにただびくびくするしかない状態で、かなり情けないです。
昨日は息子と調布を11キロ歩くイベントに参加してきて、途中の深大寺で仏様にとにかく福島の原発をなんとかしてくれとお願いしてきました。
投稿: イライザ | 2011年6月12日 (日) 11時37分
真似すんなよぉー、イライザめー!!(爆笑)。確かに、昔、N野さんに「あんたたち似てる・・」って、言われてたことあるよな。そおか、買ったか。
今、東京の放射能汚染が、言われているよりかなり数値が高いと騒ぎになり始めています。政府は明らかに隠蔽したのだと思う。良く考えりゃ、当たり前だけど。
草むらとか植え込みとかが特にホットスポットになっているらしい。
お子さんを遊ばせる時は気をつけなさい。
投稿: ナヴィ村 | 2011年6月12日 (日) 12時22分
そっちこそ真似すんなーっ!。私は現場で何度もナヴィ兄さんに間違えられたことがあるよ。
放射能については、外に出たい盛りの小4男子を持つ母としては本当に悩ましいです(涙)。
投稿: イライザ | 2011年6月12日 (日) 20時15分
お疲れさまでした!
非常に刺激的なイベントでした。
初心者の詩なんか…と
最初は躊躇しましたが、えいやっと
鮫川の舞台から飛び降りた次第です。
詩を作ることも難しかったのですが
朗読はもっと難しかったです!
今後ともよろしくお願いします<(_ _)>
投稿: ストウ@THE FROCKS | 2011年6月13日 (月) 12時50分
ストウさん、コメントありがとうございます。ストウさんの弾き語りはバンドサウンドがちゃんと聞こえてくる弾き語りでとてもかっこ良かったです。我が福島県からよくぞこんな才能が・・・と感嘆しました。
どの辺に音楽的なルーツがあるのか、今度ゆっくりお聞きしたい気持ちです。
初心者の詩・・・なんておっしゃいますが、プロの詩人なんていうのは本来的にはいないと思うんですよ。素直に書いて、正直に読めば伝わる、と、やるとき僕が心がけているのはいつもそのくらいのことです。
ストウさんの詩も朗読も伝わるものがあって、とても良かったです。これからも続けてみてはいかがでしょうか?良くロックの楽曲に間奏部分にリーディングみたいのが入るやつがあるじゃないですか。パティ・スミスとか。
THE FROCKS、期待しています。
今度、ゆっくりお会いしましょう。
投稿: ナヴィ村 | 2011年6月13日 (月) 21時14分
いつものように遅ればせながらのコメントです。(笑)お疲れ様でした。朗読を頼んで良かった。グッドジョブ!!すごい良かったです。
自分も初対面の方でも、初めて会った感じがしない、どこか懐かしい感じがして不思議な感覚がしました。 そして、温かいイベントになったなと思います。ナヴィ村さんの文章に下村誠を見てたんだけど、朗読には諏方優を見ました。自分の目に狂いはなかったと思いました。(笑)
ありがとうございました。
改めて打ち上げやりましょう。企画会議という名の(笑)
投稿: sami | 2011年6月17日 (金) 07時57分
samiさんこそ、お疲れ様でした。身に余るお褒めの言葉、ありがとうございます。
昔から詩人面することには気恥ずかしさと抵抗がありましたが、今回は開き直って「詩人」として読もうと思ってあそこに行きました。ちょっと「演じ」ました(笑)。
メールの方に、次は朗読だけの・・・と書きましたが、それ以上に、もっと地道に、いっぱい詩を書こうとも思いました。
1度目同様、2度目も成功でしたね。若松イヴェント、次も楽しみしています。下村さんも喜んでいると思います。
投稿: ナヴィ村 | 2011年6月17日 (金) 21時21分