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映画『薄桜記(はくおうき)』~時代劇の品格

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 片腕を失い、足を負傷し、それでもなお降りしきる雪の中、復讐に燃え、悪漢どもと斬り合う市川雷蔵。カッコいい!しびれる!

 梅雨明け宣言が出た東京、雪にのたうつ侍一人。どうです、涼しくなりました? 

 これはネットで探した市川雷蔵の復刻版ポスター。どの映画のシーンかというと59年・大映の『薄桜記(はくおうき)』からのもので、今、この映画を撮った監督、森一生生誕百年の特集が東京近代美術フィルムセンターで催されてiいる。で、先日の土曜日、早速行ってきた。

 私は森一生という監督を知らなくて、プロフィールと上映ラインナップを見ると、主に時代劇を中心とした娯楽大作にその手腕を発揮した人のようだ。長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎など日本の映画史を彩る名優達の名作、傑作と名高い作品を数多く手がけている。代表作は『薄桜記(はくおうき)』(59)、『不知火検校』(60)、『ある殺し屋』(67)などがあり、特に『薄桜記(はくおうき)』のラスト、雪の中で繰り広げられる剣戟シーンの美しさは伝説的と謳われている。

 さて、この『薄桜記(はくおうき)』だが、どういうお話かと言うと、一言で言えば忠臣蔵の外伝である。主演は市川雷蔵×勝新太郎のダブルキャスト、女優は真城千都世。

 http://youtu.be/NGMqX6CV56s

 勝演じる中山安兵衛と雷蔵演じる丹下典膳、二人の武士の友情とそれに恋が重なって、無類に面白いストーリー。とにかく脚本が良い。原作は五味康祐。

 私はここ数年、歌舞伎を集中的に見たせいか、これは歌舞伎の演目を映画に移したものかと初め思った。どの場面も“~の場”と名称つけて単独で見ても見ごたえのあるシーンの連続で、最後何もかもが終わって赤穂浪士が吉良邸の門を開け放ち、中になだれ込んでいくシーンに「終」の文字が重なるところなど、まるで幕が引かれるタイミングそのままで、あまりにも歌舞伎的だ。

 で、さらに私が考えたこと。それは昨今の流行の言い回しをすれば時代劇の「品格」ということ。時代劇の魅力とは偏にリアリズムの部分とカリカチュアされた様式美の部分との絶妙なバランスだと思うのだが、最近の時代劇はそれが目茶目茶に壊れてしまった。

 それと役者。時代劇に映る人々は誤解を恐れずに言わせて貰えば日本人ではない。現在の日本人がルーツとするべき人達であることは無論間違い無いが、西洋的な倫理観が導入される以前の人々は規範やそれに伴う心の動き方が今とは全然違うのだ。私はそれを歌舞伎から学んだ。役者はそれを表情、立ち振る舞い等で表現しつつも、今の我々に憧れを抱かせるようでなくてはならず、そのような才能が今はいない。現在やっている大河ドラマを見ても明らかなように、今は現代劇がかつらを被っているだけなのだ。

 それでようやく市川雷蔵の話になるが、彼は凄い。雷蔵は37才で死んだが、もし、生きていてもどうなったのかが全く想像がつかない。リアリズムとカリカチュアの最良の共存が彼の中にあると言って良い。

 また、表現においても、例えばこの映画で、最愛の妻が犯されて後の、武士の一分の立て方、復讐の遂げ方等、そのいちいちにおいて現在の時代劇のそれとは全く違う。妻千春に対しても“本当は愛しているが、仕方が無いのだ”みたいな雰囲気、表情などはもう微塵も感じさせない。完全に突き放しちゃってる。突き放しちゃってるが、それでいて深く深く彼女を愛していることが見ている者に理解できる演技。

 正に不世出、空前絶後の才能である。

               ☆

Photo_5 実はこの土曜日には最後にもう一つ凄いサプライズがあった。それは上映後、場内が明るくなった時のこと。私の席の隣には二人組みの年配の女性が座していたのだが、なんとその内の一人が、たった今スクリーンの中で見ていた、雷蔵の妻千春を演じていた真城千都世さんだったのだ。

 当時の女優さんというのはもう本当にキレイで、鑑賞中ずうと見惚れるようだったが、まさか、その直後、ご本人に会えるとは夢にも思わなかった。驚いた。

 随分ご高齢かと推察するが、今もっておキレイで一目で分かった。もし間違いだったら失礼かと躊躇していると、色紙にサインを貰っている人がいてそれで確信した次第。

 「一緒に写真撮ってくださいませんか?」と声をかけると快く応じてくれた。たった今、勝新が恋焦がれ、雷蔵が深く愛した女性を演じたその人とツーショット。なんて贅沢だ。こんな経験は二度とないだろうな。画素数が少ない携帯の、ややピンボケの写真だけど大事にしようと思う。

              ☆

 最後にこの近代美術館フィルムセンターについて。ここの館の上映時の暗闇は良い。ほんと、真っ暗になる。最近の映画館は安全上のためか、少し明るくて画面の映像に影響があるのではと思っていたが、ここでは全くの闇の中から幻のように映像が立ち上がってくるようで、往時の映画鑑賞の醍醐味がある。安いので余り映画に興味がなさそうな人もたまにいてざわついていたりするが、今回のような“チャンバラ映画”を見る時などにはそれもレトロで良い。実際、先日は上映後、拍手が起きた。いいな、この感じ。

 そして市川雷蔵。彼の演技はクールで涼しげで、夏に見るには意外に打って付では。特に『眠り狂四郎』シリーズなどは。↓は去年の「大雷蔵祭」の時の映像。

 http://youtu.be/_EdnahNVy8s

 確かにクールだけど・・・女性は熱くなってしまうかも・・・・ネ(笑)。 

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