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天狗とミッキーマウス

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 つい先日、中学生の娘の担任がクラスでこんな質問をしたと言う。「この中でディズニーランドに行ったことのない人はいませんか?」と。

 で、こともなげに挙手したのは我が娘ただ一人。しかし、先生はじめ、クラスの友達は皆驚いて「えっ、本当に行ったことないの?行ったことあるのに小さくて覚えていないとかいうだけじゃないの?」と、散々言ってくれたらしい。

 この話を聞いて私は苦笑してしまった。別に確固たる主義があって連れて行かなかった訳じゃない。いつか連れて行ってやろうと思っていたら、いつの間にか息子も娘も大きくなってしまっただけです(笑)。だが、当時はブッシュがアフガンを空爆したりしていた頃だったので、無意識のうちにも反米的な気持ちから足が遠のいてしまったというのはあるかもしれない。

Photo_3 その代わりと言っては何だが、子供達が小さかった頃に、私が彼らを何度も連れて行ったは高尾山である。その頃、妻は土日も仕事をしていて、必然的に週末は三人だった。

 それで朝、おにぎりのような簡単な弁当だけを作って、インスタントカメラをそれぞれに持たせて出かけたのだが、京王線高尾山口の駅に降りると散策マップのようなものに季節ごとの花が紹介されていて、それを見つけては写真を撮らせた。楽しかった。

 で、娘がやや大きくなった頃、何故、うちは流行のアミューズメントパークのような所には行かず、古墳巡りや高尾山ばかりなのか?とクレームをつけたことがあった。その時は、適当に答えたような気がするが、娘は相当に不服そうだった。

 しかし、その後、私の面目躍如となる出来事があって、それが例のミシュラン観光ガイドにおける高尾山の三つ星評価である。外国人の目から見ても、都心に近く、きれいに整備されていて自然の表情豊かな高尾山は絶好の行楽地であるらしく、その評価を得て「どうだ、お父さんが君たちに、どれだけ豊かな子供時代を過ごさせてあげたかこれで分かったろう?」と自慢げに言うと、今度は娘も黙った。そして、まんざらでもなさそうだった。

 だが、この「ミシュラン三つ星」によって、高尾山は随分と変ったらしい。外国人客が増え、そのために周辺の店にはアジア・ヨーロッパ各国の通訳のサービスをつけたりとかの対応を余儀なくされたと言う。そして何よりも人が激増して登山道は渋滞するようだとテレビ・ラジオの報道は伝えていた。そして私の周囲の実際に行った人達も同様なことを言っていて、それでその三つ星以降、私はかえって高尾山に行くことはなくなった。

               ☆

 が、今日、本当に久しぶりに高尾山に登った。目的は東北大震災の被災地復興と福島第一原発の事故が一刻も早く収束するのを祈念するためである。

Photo  高尾山にはその山腹に高尾山薬王院有喜寺がある。天狗の伝説で知られるが、ご本尊は飯縄(いずな)大権現で、これは不動明王の仮の姿として衆生を救済する徳のある仏神。・・・とガイドにはある。

 で、何故、この薬王院を詣でることを思い立ったかというと、話は先週末に遡る。

 私がここのところ毎朝港区増上寺に通っている、とアルバイトのS君に語ったのが事の始まり。S君は2年前、仏陀の7大聖地を巡る旅と銘打ってインドに渡り、そのケルアックの『路上』のようなドキュメントを各休息地点から随時メールで送ってよこすという離れ技をしていたブッディストである。腕にはなにやら私の知らない梵字の刺青が彫ってある。私の話を受けて、彼は一通りインド仏教と日本仏教の違いについて述べた後、ある、一冊の手帖を見せてくれた。

 それは御朱印帳というもので、アコーディオン状に折りたたまれた紙に各寺院や神社のご朱印を記して貰うもの。彼のそれには寺院・神社の区別無く、出向いた施設ならなんでも無作為に御朱印が押されていて、一見してそれはとても壮観であった。

 これはキた。コレクター癖はなくとも、コンプリート癖、完全制覇壁のある私のツボに直撃の一品だ。

 それで、私が考えたこと。それは多くの寺を巡ってご祈念し、ご朱印帳に記入してもらおうという事。だって、被災地の復興は寄付なりボランティアなりの具体的な行動もとれるが、現在も進行中の福島原発の事故に関しては、もうただただ祈るより他にないではないか。

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 15日に早速、増上寺にて御朱印帳を購入し記帳して貰った後、16日は日野市高幡不動金剛寺、17日は調布市深大寺に行った。そして本日は八王子薬王院ということにした。

              ☆

 今日にしたというのにはもう一つ考えがあって、それはここのところとても暑いから。三つ星評価以降、人が増えたといってもこの暑さならあまり来る人はいないのではないかと思った。念のため朝早目に家を出て、高尾山口駅に着いたのは7:00頃。コースは慣れた6号路・琵琶滝コースを一人行くことにした。

 沢の水の流れる音が耳に心地よく、山の中は涼しかった。それで道中考えていたのは悲しいかな、やはり放射線量のことだった。各種報道で人工的な場所より自然が残る部分のほうが数値が高いことが明らかになったが、東京はどうなのだろうか?

 今朝、出がけに読んだ毎日新聞朝刊には欧州放射線リスク委員会科学議長クリストファー・バズビー氏という人の発言が載っていて、それによると原発から200km圏内の放射線量をきめ細かく測定し、インターネットで詳細なデータを公表すべき、現在の汚染状況は深刻、とあった。

 200km圏内と言うと東京の一部も含まれる。距離的に八王子の高尾はまぬがれている筈だが、神奈川や静岡の茶葉からもセシウムが検出されたということを考えれば、ここだって全く無害ではないだろう。

 この、私達に本来力を与え、癒し、心地良いと感じさせる緑や森の空気、山間を嘗め、やがては合流し海へと向かう水の一滴が、ひどく毒性を持ち、我々を拒む存在となってしまったとはどうにも想像したくない事態だが、一切草木に仏が宿ると言うのなら、余りにも長くその仏をないがしろにした文明に頼り切った生活をしていた現代人への、これは報いのようにも思える。私たちは仏を殺したのか。だとしたらこの地上は即地獄ということになり、私たちは今後、地獄を生きる決意をしなければならいのだ。

 山頂に着いたのは8:30頃であったろうか。ゆっくり行った。途中途中の小さなお堂にも一々手を合わせ、小さな花を見つけるたびその都度携帯で写真を撮った。

 天気がよければ13州が見渡せたと言われる高尾山頂だが、今日は生憎の天気でそれほど見渡しは良くなかった。濃い緑の木々の間から八王子の街がぼんやり見えた。

                   ☆

 さて八王子薬王院だが、最初に山頂を目指してしまうとそれは当然下山途中に詣でることになる。普通、長い階段を上りきったところにある本堂その他も、だから意識としては随分違うものになる。山を登りきってほっと一息ついて、下山中の、力が抜けたところで参拝ということになって、それだけでこの薬王院というところはいつも私には安らかな印象の内にある。

 私は手を合わせ本来の目的である東北大震災の被災地復興と福島第一原発の事故の収束を祈念し終わると、例のご朱印帳に記帳して貰った。増上寺といい、高幡不動といい、深大寺といい、この記帳してもらった文字を見ると、その文字の持つオーラが全くそれぞれのご本尊のそれと同じに思えて驚く。この薬王院のそれもその通りで、昨日の調布深大寺の、女性的で上品な印象の白鳳仏を思わせる文字と対照的に、それは荒々しい山の神そのもののような筆跡であった。

                   ☆

 下山中、足に来た。上る時の筋肉はだいたい良く使うそれなのだが、下山はどうにも普段使わない部分を使うようだ。それで上る時よりも立ち止まることが多くなった。そう、だいたいどんな偉大な登山家も下山中に死ぬのだ。ま、状況も、スケールも全然違うが。

Photo_5  下山中、不思議なものを見た。やはり同じような下山中の老カップルがなにやら道の真ん中に何かを見つけ、しばらく眺めていた後に手を合わせていた。

 近寄って見ると、それは大きな蜘蛛を引きずっている蜂だった。蜂は良く見ると羽根が傷ついていた。飛べない蜂が多分戦って仕留めたのであろう蜘蛛を何処へか運ぼうとしていた。私は夢想した。同心円状に張り巡らされた蜘蛛の巣に捕えられた蜂が、必死にもがき脱出して、逆に蜘蛛を仕留める図を。

 だが、蜂は蜘蛛を何処にもって行くのだろう?

                  ☆ 

 中学生と高校生になった娘と息子と一緒にミッキーマウスに会いに行くつもりは私にはもうない。二人には将来彼氏なり彼女なりができた時、一緒に行けと言ってある。

 私には二人の幼少期に、一緒に高尾山で天狗と駆け回った日々の思い出があればそれで十分である。

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コメント

ここまでシンクロしてるともう笑うしかない感じですが、実は今日息子と、正に近々御朱印帳を始めようって話をしていました(笑)。
息子はその年にしてはかなりの数の全国の神社・寺を訪れていて、今まで気付かなくてもったいなかったけど、お宮参りをした近所の神社をスタートに始めてみようということになりました。
旅の記録にもなるし、コンパクトだしね。

高尾山は息子と行こうと思ったころには、ミシュラン渋滞が始まっており、そのかわり我家は御岳山に毎年通っています。
その御岳山も最近TV等でパワースポットとかで紹介されてしまい、混んできつつあるようで、不安です。

ちなみにミッキーの方は私が元バイトしてたこともあり大好きなもので、年に3~4回は行ってるかも・・・。

投稿: iraiza | 2011年7月18日 (月) 21時33分

iraizaさん、息子さんとご朱印、良いんじゃないですか。ただ、昨日貰ったご朱印とそれについてきたチラシによると“この印はご本尊の分身にあたる宝印であって、たんなる記念スタンプではありません、大切に護持なさって・・・”とあるので、単なるスタンプラリーにならないように気をつけなきゃいけません。

 最近、ガラにも無く真面目に仏様と向き合っているのよ、オレ。

 こういうものが何かのキッカケになればそれはそれで良いんじゃないかなと思います。

 

投稿: ナヴィ村 | 2011年7月19日 (火) 05時50分

ナヴィ村兄さん、もちろんスタンプラリーのようなつもりでは無いですよ。
息子には、毎回ここはどういう神様もしくは仏様だと言うことを説明してからてお参りさせる様にしています。

真摯な気持ちで行いたいと思います。

投稿: iraiza | 2011年7月19日 (火) 07時19分

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