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映画『ぼくのエリ』~バンパイヤという妖精

 特異なパーソナリティゆえに成就できない愛を描く素材として、バンパイア(吸血鬼)とはなんと魅力的な存在だろう。そして、人は、いつ、その事に気づいたのだろう。

 洋の東西・新旧を問わず、映画なら何でも見ると公言する私だが、一つだけ見ないジャンルがあって、それはホラー映画。しかし、ある時、テレビのバラエティ番組の映画紹介のコーナーを何気に見ていたら“『小さな恋のメロディー』のホラー版”なる言葉で『モールス』という映画が取り上げられていて、これなら見ても良いかも・・・と、少なからず食指を動かされていた。

 先日、その事を職場で話すと「『モールス』はアメリカで作られたリメイク版。オリジナルはスウェーデンの映画で、そちらの方が素晴らしい。」と、教えてくれる人がいて、ついに初ホラーとなった。

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 映画の題名は『ぼくのエリ~200才の少女』。白目を剥いて、泡を吹いて倒れてしまったらどうしよう・・と恐る恐る見たが、これは何と、ホラー映画の形を借りた、詩情豊かなメルヘンであった。ただし血まみれの。

 全編を通してほとんどの場面が雪景色で、その事だけでまるで北欧神話でも見せられているよう。そして、宣伝の文句では“12才の少年と少女の初恋・・・”とあるが、ここに描かれているのは恋と言うよりも、性やモラルが意味を持つ直前の、友情以上の共生感覚のようなもの、だと思う。それは人の一生でほんの一瞬、この時にだけ可能な美しい瞬間でもある。

 見れば分かるように少年オスカーは女の子のようだし、少女エリは男の子ようで、両者とも性の所在が曖昧だ。そして、さっき北欧神話と書いたが、2人ともまさに両性具有の妖精にも見えて、この感覚の有無がアメリカ版の『モールス』とこのオリジナルとを分けている。

 印象的なシーンは沢山あるが、私の脳裏から離れないのはやはりラスト。正に衝撃のラストシーンだが、書くのは止める。ただ、これは映画史上に残る最も子供と一緒に見てはいけない名場面、とでも言っておこう。内なる暴力衝動が満たされると同時に初恋が成就する時のような美しい気持ちにも浸れるという・・・うーん、こんなの初めてだなあ。

 ドキュメンタリーと見まがうほどに北欧の自然とそこに暮らす人々を捕えたカメラ、そしてまだ成長過程にある主人公を演じた少年・少女2人の、この物語るを演じるに相応しい一瞬をとらえた、こちらも正にドキュメンタリー。

 画面いっぱいの雪の白と滴る血の赤が意味するのはイノセンスと約束、だと思った。

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