映画『ポール・マッカートニー~THE LOVE WE MAKE』~NO2の確信
3月に原発事故が起きてすぐの斉藤和義の例の歌が問題になった後、私が一番思ったのは“この手の歌をもっと多くのロックシンガーが唄うんじゃないの?”と思っていたがそうじゃなかった、ってこと。これは何かのインタヴューで斉藤自身も言っていた。
社会を揺るがすような大事件が起きた時、音楽家がどのように行動すべきなんて勿論個々の判断で良いと思うが、ことロックに関しては「反抗」とか「自由」とかをその本質に抱えるジャンルだったりするので、メディアの自粛とか規制の中に絡めとられた状況を見るとやはり「夢」が挫折したような印象を受ける。
ジョン・レノンに比べるとポール・マッカートニーは社会的な問題に対して直接的な発言や行動が少ない。言ったら傷だらけになってしまうと分かっていてもあえて口にして、予想通りボロボロになってしまうジョンの脇にいて、理知的な発言でサポートするという、ビートルズの中で彼はそういう役回りだった。「利」の人で決して損な事はしない、そういうイメージ。
今月9日に公開の映画『THE LOVE WE MAKE』はそのポール・マッカートニーが9.11直後に行なった『コンサート フォー ニューヨーク』の舞台裏を捉えたドキュメンタリーである。
このコンサートに関してはライブ盤のCDで聴いていて、当時あまり良い印象を持たなかった。スーパースターと言われるアーチストが多数出演していたが9.11の事件が起きた本質的な理由からすると的外れな選曲が多くて、「まあ、ポールがやるとこういう風になってしまうのだろうなあ」なあんて思っていた。ロックセレブ達の自己満足的なパーティーに見えた。
しかし、今、原発事故後の状況から9.11直後のアメリカを推し量るに、あの時も同様な事が起きていたことを改めて思い出す。『イマジン』や『明日に架ける橋』など、今では信じられないような多くの名曲が放送禁止になり、右翼的な内容のカントリーがヒットしたりしていた。そして、そこにも当時の事情なりの経済主導の「利」が絡んでいた。だから、そうした状況の中で一つの態度を表明するのは、それなりに勇気のいることだったんだろうな、と、今は思う。
私はこの映画を見ても「でも、やはりポールは凄い・・」みたいな気分にはきっとならないだろう。ただビートルズの中で、夢想家、あるいは荒唐無稽なイメージで語られるジョンやジョージの行動が案外具体的だったに比べ、実務的な利の人ポールの社会的なアプローチがこうした的外れとも思えるドリーミーなものだったのを考えると、ハタとある答えに行き着く。
それはメンバーの中の誰よりも 彼は音楽の力を信じている、ということ。
それは歴史を揺るがすような大事件を前にすれば吹けば飛ぶような確信である。だがそれは彼が書く曲のように美しい確信だ、と思う。
私はこの映画にそれを見に行く。
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