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ブラック・ヴァージンズ!

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“少年は少女をまるで防波堤から海を眺める画家のように見つめている。その美しいエメラルド色の眩しさを映す、夏の青空のような気持ちで ”

 これは10年前に彼のファーストアルバム『The blue virgins』が発表された際、1曲目の『La Mer』を指して僕が書いた文章。   

 あの時、少年のフィッシュアイの瞳には確かに空と海が映っていた。気の遠くなるほどにひたすら青く、それはまるでカラーコンタクトでもしているかのようなblue な瞳だった。

  10年経ってラリーはラリーアッサラームになった。ただもう瞳はあの時のようなイノセントなblueではない。第一、その目の中にはあの少女が居ない。少女は地震か、津波か、はたまた原発事故により避難所を彷徨っているのか、いつしか彼の視界から消えてしまった。今、ラリーの黒い瞳が見ているのはありえない砂漠のような風景だ。

------ひろがる地平線 まるでアフリカ

 ポップミュージックの中で自転車が取り上げられた例は幾つもある。クィーンの『Bicycle race』や高田渡の『自転車に乗って』、矢野顕子の『自転車でおいでよ』etc。しかし、今回のニューアルバム『Black virgins』の一曲目『Love on the planet』の自転車はこれまでにあったどの自転車とも違う。3月11日のあの日、ガソリン切れの東北の至る場所で、大渋滞の東京で、自転車は正に愛する人の安否を一刻も早く確かめるための最速の乗り物だった。そしてこの2011年という年に十年ぶりに発表される2ndアルバムのオープニングを飾るものとして、自転車をテーマにしたこの曲は、何と鮮やかな、そしてリアルな一曲だろうか。

 -----夜の彼方までゆく あなたに逢いたいだけ 走る夜明け

  この一行。それはあの『La Mer』の“あなたは海 ぼくの暖かい場所”というフレーズから繋がっている、と僕は思う。 ここに“ある”筈なのに“ない”何かを思って自転車がハゴロモの夜明けを駆ける。小さなペダルを地球に響かせて行く。

 少女は見つかるだろうか?

 ・・・・・・・と、ここまで書いて、後から知ったのだが、何と、この『Love on the planet』は震災から遡ること2年も前に書かれたナンバーだとのこと。 『Love』をテーマにしたオムニバスアルバム「ALL ONE」にも収録されていて、この曲はかなり人気のあるナンバーだそうだ。帯びの文章、その他のアートワークに触れて後、開封して1曲目の、「頂」という単語、風景、この自転車・・・・何というトラップ(笑)。でも、そう言えば誰かか言っていた、“真の詩人とは未来を幻視する人のこと”だと。・・・・・・ラリー、恐るべし、だ。

 震災絡みの先入観から前半、とんだフライングな文章になってしまったが、このアルバムから聞こえてくるのは『仙台』という都市の名の下に、ともすれば覆い隠されてしまいがちな、日常の物語だ。3・11以前、その日、そしてその後も、日々はきっとこのようである筈で、震災はダイヤリーの中の一つの出来事として置かれている。それは良いことだと思う。『SEVEN』、『ブリティッシュがお好き』、『うんどうかいのうた』、『HOME OF SENDAI』。そして『BORN IN THE SENDAI』と衒い無く歌えるラリーを今僕はとても羨ましい。

 ボーナストラックと銘打たれた2曲はMASHからラリーへの『HEY!Groovy』と、それに対するラリーからMASHへの返歌である『HEY! MISTER』。“ずぅと、うまくやっていこう”と唄うMASHに“いつだって 何も変らない”と答えるラリー。20年以上も前の杜の都・仙台で歌い始めた二人の EVER GREENなやりとり。最後に東北のミュージシャン達の絆の強さがさりげなく示されて、これも羨ましいと思った。   

 ありふれた、だからこそかけがえのない日々の積み重ねの10年の内に、ラリーはラリー・アッサラームになった。まるでピカチュウがライチュウになったみたいに。

  ブルーからブラックへ。そして帯びには現在新作を製作中、とある。終わらないメタモルフォーゼ。

 そう、彼は、この音楽は、進化形なのだ。

              ☆

 本日、杜の都の吟遊詩人ラリー・アッサラームから10年ぶりの2ndアルバムが送られてきた。嬉しい。

 ↑このニューアルバムのフライヤーに私が寄せた文章。読めば分かるようにアルバム1曲の『Love on the planet』を私は大きく誤解した聞き方をしていて、それで書き始めてしまったが、最初のインパクトが強烈で事実を知った後も修正がきかなかった。本人にこの誤解した経緯を含めた文章にしようと提案したところOKしてくれて、それでこんな文章になった次第。

 これはその昔、詩人草野心平が友人が死んだと聞いて感動的な詩を書いた後、実はそれは誤報で友は生きていると知って、出来上がった詩の最後に 生きているという連絡が来た。泪が出た、と書き加えて、そのまま作品にしてしまったことにヒントを得た(誤・追悼)。間違いや誤解が元でも、その時生じた感情は真実なのだとその詩は教えてくれる。

 私が何故、オープニングナンバーを誤解して聞いてしまったか。それは送られてきた資料の、特に帯びに使われるのだとされた文章があまりに感動的だったからだ。このアルバムをまだ手にしていない人のために是非、それを紹介したい。

 “2011年3.11の東日本大震災の当日、たまたま東京に。折れた東京タワーを見つめながら震災当日に仲間たちと27時間かけて国道4号線を仙台へと車で移動。その後、度重なる余震の中、大切にしていた機材が破損したり、マイクが揺れて録音を何度もやり直すこともあったが、東日本復興活動の合間、本作は制作にかかわる東北在住の猛者たちが雪だるまのように集っていった。インディーズミュージシャン、アーティスト、エンジニアとの熱い製作過程でいつのまにか「生きがい」となっていった。

 東日本で我々は生きている。そう、東日本は我々の音楽の原点なのである。このアルバムにこめた想いを聴いていただければ幸いに想う。アルバムを手にとって下さった全ての方々に感謝申し上げたい。サードアルバム現在製作中!”

 本当はこの文章以外の言葉はいらなかったのかもな、ラリー。読むたびそう思います。

 PS 現在、彼のブログで本人によるこのアルバムの全曲解説が読めます。

  http://blog.livedoor.jp/rainbowcafe/

私が誤解して聞いた『Love on the planet』はジム・ジャームッシュの『Night on the planet』がヒントになっているとのこと。

 へぇー!!そうなのか!!驚き。

そしてこのアルバム、時代に逆行してダウンロード及びレコード店への流通は行なわず、ライブ会場限定発売、もしくはメールによる通信販売のみとのこと。定価1000円+送料200円。アドレスはこちら↓。

 rallyassalam@live.jp

PSのPS このアルバムの実際のフライヤーの中で、私の肩書きが“音楽ライター”となっていた。これも驚き(笑)。

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この8ヶ月間、団地の子供達と自転車を乗り回して過ごした。僕が米沢で購入した黄色い自転車が子供達には評判でみな乗りたがった。ある時は足が届かない子供を乗せ(うしろを抑えながら)ある時はハンドル前のカゴに乗せたりして田圃の中の一本道を往復した。楽しかった。彼らは今私のかけがえのない友人だ。(僕のブログのyoutubeで紹介した“望”年会の映像にみな総出演している。)

私は今回の職場では交通費が出ない。だって自転車で5分だから。(笑)

投稿: ほぴ村 | 2011年12月 2日 (金) 09時06分

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