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映画「冒険者たち」~フォール・ボワイヤール

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 「あの後、ローランはあの要塞島を本当にホテルにしたのだろうか?」1967年の映画「冒険者たち(Les Aventuriers)監督ロベール・アンリコ」のあの切ないラストを見てそう思った人は結構いる筈だ。

2_3   ライセンスを取り消された飛行気乗りマヌー(アラン・ドロン)と、レーシングカーの最新エンジンを開発しようとして失敗した自動車技師ローラン(リノ・ヴァンチュラ)、そして個展を開くも酷評され、傷ついた前衛彫刻家のレティシア(ジョアンナ・シムカス)。

 恋に発展するのを寸止めしたようなトライアングルな友情で結ばれた彼らは、それぞれの夢が挫折したのを機に起死回生を果たすべくある冒険に旅立つ。コンゴ動乱(1960~1965)の時、財宝を乗せたセスナが海に墜落し、それを見事引き上げたら保険会社と折半で良いという話がもたらされ、それにのったのだった。

 で、最初の設問は宝探しに明け暮れる船上でマヌーが「分け前は一人1億以上だ。その金をどうする?」との質問にレテシアが答えた言葉に端を発している。

 彼女曰く、「海に浮かぶ家を買うわ。ラロシエル市よ。子供の頃からの夢なの。家というより海に囲まれた昔の要塞よ。それを改装するの。<中略>波の中にいる気分で創作するわ。もう発表しない。」

 その後、悲劇が起きるもマヌーとローランは大金を手にし、ローランはレテェシアが夢見た“海に浮かぶ家=昔の要塞”を買う。要塞とはフランスのシャトラント地方、港町ラロシエル市の洋上に聳えるフォール・ボワイヤールの事だ。

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 調べるとフォール・ボワイヤールは1802年にナポレオンが対イギリス用に建設を始めたが失脚し中断。その後1860年に完成するが、一度も使われることのないまま1920年までフランス軍が管理した。一時、ナチスの手に渡ったり刑務所になったりしたが、1958年にあるベルギー人がホテルにするために買い取った以降は放置されたままになり、この映画のロケが行われていた頃は廃墟になっていた。その後は1988年にテレビ製作会社が買い取り、今は体力を競うゲームのバラエティ番組(SASUKEみたいなものか?)の舞台になっているという。

 この映画を最初に見たのがいつだったか全く覚えていない。東京に出てきたばかりの19の頃だろうか。ただ他の人と同様にほぼこの1作で世界中の映画ファンの「永遠の恋人」となったジョアンナ・シムカスに強烈に魅せられたという以外はあまり覚えていない。最後の舞台となったフォール・ボワイヤールの事など考えもしなかった。

Photo_15  ビデオで持っているにも拘らず、今日、TOHOの「午前10時の映画祭 いつみてもすごい50本」でこれが上映されているのを知って見に行ったが、デジタル処理された映像とドルビーサウンドの音で全然違う体験だった。ローランもマヌーもレテシアも皆、新しく?なったように見えて、昔、洒落た大人に見えていた彼らが今日は若々しくて眩しかった。当たり前だが日々見るこちらばかりが年をとっていく。

 映画の中で「要塞」を買ったローランはここを改装してレストラン件ホテルにし、硬化ガラスを使って送迎用のヘリポートを作る・・・と、壮大な構想をマヌーに打ち明けるが、直後、彼らが手にした大金目当てのギャングの襲撃を受け、あえなくマヌーが命を落とす。

 ローラン 「マヌー、レティシアは言っていたぞ、お前と暮らしたいってな」
 マヌー   「この嘘つきめ・・・・」

 フランス映画はハッピーエンドじゃないのが良い。この後、マヌーの亡骸を前に頭を抱えるローランからカメラは引いていき、上空からの俯瞰撮影になってフォール・ボワイヤールをいつまでも映し続けて映画は終わる。愛した女の、文字通り「夢」の中で死んでいくマヌーと、その中で今後一人で生きていかなくてはならないローランと、一体どちらが幸せなのだろう?

 現実のフォール・ボワイヤールがバラエティ番組の舞台になってしまったのを残念という声の中には、映画の通りホテルにすれば世界中の映画ファンが来て儲かるのでは、という声もあるようだが、私はやはり廃墟のままであって欲しかった。この映画をこんなにも長い間青春映画の代表作とした位置を不動のものにしているのは、そこにその季節特有の愛しさ、愚かさ、嘘、などが余さず描かれているからで、廃墟のままの「要塞」はその残酷さを象徴しているように思えるから。

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 国内盤DVD『冒険者たち 40周年アニヴァーサリーエディション・プレミアム』には、レティシア役を演じたジョアンナ・シムカス(1943~)の2006年カンヌ映画祭におけるインタビュー映像が収録されているらしい。

 63才(現在70才!)になった彼女を見たくないという声も良く分かるが、私は機会があれば是非見てみたいと思う。

 だって私が愛しているのはジョアンナ本人ではなくレテシア。

 彼女は今も碧い海にいる。 

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コメント

はじめまして、ほぼ同世代の主婦です。ネットに慣れておらず、この様なコメントを送るのも初めてですので、失礼がありましたらご容赦ください。
先日スカパーで久しぶりに映画冒険者たちを観て、以来フォールボヤールの廃墟の現在など調べておりました。まだ残っている事に驚愕し、いつか見学ツアーに行くのだと心にきめて折につけ情報を集めていたところこちらの記事に出会いました。
記事を読みながら情景が浮かび音楽が聴こえ涙が出ました。また、自分の心をそのまま文章にしていただいた様な気がしてとても嬉しく思わずコメントしました次第です。おそらく同じ気持ちの方はたくさんいらっしゃると思います。とても感動いたしました。ありがとうございました。


投稿: あんどう | 2015年1月 6日 (火) 12時14分

 あんどうさん、初めまして。大変、心のこもったコメント、ありがとうございます。ご覧の通り、何でもかんでも書き散らしたような節操のないブログで叱られること多々なのですが、頂いたようなコメントを見ると励みになります。

 映画「冒険者たち」で後、書き足りなかった感想を付け加えさせて頂くと、3人の名前です。マヌー、ローラン、レテシァ、と、外国映画というと英語名ばかりに耳が慣れていた頃、とても新鮮だったことを覚えています。先日、あるラジオでこの3人の名前の意味を説明した話があって、興味深かったのですが、レティシアは「海の女神」で、他の二人については自分で調べろ、みたいなオチでした。まだ調べていませんが、見るたびに新しい発見があるというのが名作の名作たる所以でしょう。

 見学ツアー行かれたら、感想お聞かせください。

投稿: ナヴィ村 | 2015年1月 8日 (木) 22時00分

お返事頂けてとても感激です。興味深いエピソードありがとうございました。名前の意味とは考えた事もありませんでしたが、海の女神とは素敵ですね! レティシアという神秘的な響きと彼女の持つ雰囲気はあまりにもぴったりとして、海が初恋の相手だと言った彼女の言葉が一層胸に響きます。

あれからフランス語の勉強を始め、この歳からの新しい語学でどこまでやれるのか...全く闇雲に夢に向かって突っ走っておりますが、そんな中ふと夏がレテだと知り、これもレティシアの由来かと勝手に関連づけて喜んだりしております。
それはともかく映画というものは本当に見るたび新しく何かに気づき、また歳とる毎に味わい深いものですね。 若い頃より少しだけ人生を学んだご褒美のような気がします。

投稿: | 2015年1月20日 (火) 22時53分

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