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映画『祭の馬』~黒い瞳

200  今日、馬の祭り(有馬記念)の日に『祭の馬・The Horses of Fukushima (2013年 松林要樹監督)』というドキュメンタリー映画を見た。祭の馬。別にタイプミスではない。

http://matsurinouma.com/

 2011年3月11日の東日本大震災とそれに続く福島第一原発の事故の際には人間だけでなく動物たちも被災・被爆した。そして多くの家畜、ペットが警戒区域内に置きざられて死んだ。

 個人的に今でも忘れられないのは震災・事故の後、NHKで放送された番組での被災地にある養鶏場の映像。ガソリンの不足と交通の麻痺から飼料が届かず、鶏達に餌を与えられず苦悩する養鶏農家が取材されていたが、コツコツと何百もの鶏達がつつく空の餌箱の音を今でも時々恐怖を伴って思い出す。翌朝、その音は止み、静かになった。鶏たちは全て死んだのだった。

 この映画の馬達が遭遇した事態はある意味さらに凄い。彼等は津波の濁流に巻き込まれても奇跡的に生還するが、その後の原発事故のため文字通り無人となった警戒区域内に打ち捨てられる。映画の冒頭、餓えと渇きで死んだ何頭もの馬たちの写真が映し出されるが、あの時何が起こり何が隠されたのか、私達はその細部(ディテール)を何も知らないのだと改めて思った。

 この映画の主人公はミラーズクエストという元競走馬である。2010年9月、中山競馬場でデヴューするも一勝も挙げられず、食肉馬として南相馬に移送された馬。そこであの日、上述したような事態に巻き込まれるのだが、ケガした際に菌が入ったとかの理由で性器が腫れて元に戻らなくなっている。馬は被爆しているという理由で食肉として屠畜されるのを免れるが、その後カメラは、相馬野馬追いの馬、神事の馬となったこのミラーズ・クエストの夏を追う。

 この馬が辿った数奇な運命そのものがストーリーと言えば言えなくもないが、ただこれは敗者が苦難の末に復活を果たすと言った類の物語に収斂する映画ではない。映画の中でも語られる通り、この馬たちの存在は機密とされ、馬、馬房内の様子は、本来は写真に撮ってもいけないとされているものだったようだ。が、その禁を押して撮影されたと思われる映像の中、馬たちは命そのもののように、その表情は豊かで、悲しくて、優しい。そして、その一つ一つが、ともすれば「経済」という一言で覆い隠されてしまいがちな「事」の本質を露にしているように見えた。

 人であれ、馬であれ、生きていること自体がタブーとされる命があると知ることは、辛い。だがそんな人間の事情や感傷を意にも介さぬかのように馬たちはただ美しく、時に可笑しくさえあって、ひたすらスクリーンを見入ってしまった。

 土地の持つ歴史に静かに寄り添った構成。相馬野馬追いのシーンは圧巻かつ貴重だと思った。

 それにしても馬の黒い瞳は、なんとポエジーに溢れたものだろうか。

 渋谷・イメージフォーラムにて。来年はうま年。馬好きの人は是非。

 http://movie.walkerplus.com/th124/sc635707.html

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