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大雨

 

       大雨の日 川の水が増して
       濁流が川下にいっさんに駆けていく
       黄色く濁った海を
       まだ誰も見たことがないのに

       大雨の日 太陽は寝ている
       ベッドで聖書を読んでいる
       自らの誕生の始めを
       太陽は知らないから

       太陽が眠ると 草原に風が吹き
       畑に雨が降る
       薔薇が目を覚まし 納屋に驢馬が引かれていく
       雨の線が視界を遮ると
       水嵩が増し
       川にリンゴが流れる
       そして
       その後を蛇が追う
       安いモーテルの部屋に流れる
       Johnny Guitar
       イヴがアダムに言う
       「安心して。私たちが知る前に
       罪は川に流れて行った。
       きっと蛇は溺れ死ぬ。自分よりももっと大きい
       蛇みたいな 
       あの黄色い川に飲まれて。」

       警戒警報 
       遠くの空に稲妻の亀裂が走る

       警戒警報 
       事故で大学生が四人死亡した

       警戒警報
       放射線量上昇

       警戒警報
       橋の欄干で遊んでいた幼児は行方不明で
       殺人者は容疑を否認
       リオデジャネイロのホテルの客は
       四割減で
       何処かの山中で
       また
       誰かの
       白骨の
       遺体が
       見つかった

       Naoko
       音楽が終わったら
       テレビを消せ
       カーテンを閉め
       雨の音を聞き 愛を交わせ
       貞淑なボニー
       燃え上がるジュリエット
       或いは 
       「雅歌」の
       花嫁みたいに

       怒りに打ち震える斧
       告白を強いる瞳と拒絶の一瞥
       祈りは 
       叶えられなかった
       いや
       叶えられた
       この雨は
       国家の陰謀ではなく
       気象予報士のエラーではなく
       農夫の
       聖者の
       預言者の
       雨乞いの結果だ
       この雨は
       イヴと
       カインの
       罪の
       告白の涙だ 
       いや
       この雨は
       ただの
       自然現象だ

       蝶の死骸を引きずる蟻
       汚れた靴
       忘れられたボール
       錆びた自転車のスポーク
       車
       紫陽花
       郵便ポストの蜘蛛の巣
       地図
       町
       川
       兵士
       重監房
       それら全てを含む
       世界に 今
       雨が
       降りしきる

       太陽が
       薄目を開けると
       雲の切れ間に
       わずかに光が射す
       遠くの空に
       六月の
       婚礼の鐘が鳴り
       教会の屋根の鳩が一羽
       ふいに 羽ばたく
       だが
       そいつがオリーブの葉をくわえ
       地上に舞い降りても
       そこが新しい世界でないことを
       子供たちは知っている

       警戒警報
       雨はまだ降っている

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