「パティ・スミス完全版」と「Twelve」
ここのところ図書館から借りてきた「パティ・スミス完全版」を読んでいる。“パンクの女王”とか“パンクのゴッド・マザー”とか言われているパティだが、彼女はそのキャリアを詩人として始めた人で、だからレコードやCDの歌詞対訳を読むたびにぼくは以前から物足りなさを感じていた。さらりと訳されていたり意味不明な言葉には本当はもっと深いニュアンスが含まれているのでは?と思っていたから。
「完全版」はパティの言葉を「詞」ではなく「詩」として訳していて、彼女の音楽を知らなくても詩集として読める。勿論、歌詞カードとしてそばに置いておいても良い。本書によって長い間知らずにいたことがいっぱい分かって、ぼくは益々パティ・スミスが好きになった。詩は出版時、最新アルバムだった「Gung Ho(2000)」までが収められているが、アルバムはその後「Trampin(2004)」、「Banga(2012)」と発表されているので、できれば中山康樹の「ディランを聞け!」じゃないが、その都度この訳者でヴァージョン・アップしたものを出して欲しい。まあ、それだと高価な本をその都度買い求めなくてはいけなくなって困るか。
と、ここまで彼女の詩について書いていて、このアルバムを紹介するのもどうかと思うけど、こちらはシンガー、パティ・スミスの素晴らしさを知る一枚と言っても良いかもしれない。2007年に出たカヴァー集の「Twelve」。
彼女自身の作品は1曲も無く、その名の通りロックの名曲が12曲カヴァーされている。ライナンプを挙げると
1.Are You Experienced? (Jimi Hendrix)
2.Everybody Wants To Rule The World (Tears for Fears)
3.Helpless (Neil Young)
4.Gimme Shelter (The Rolling Stones)
5.Within You Without You (The Beatles)
6.White Rabbit (Jefferson Airplane)
7.Changing Of The Guards (Bob Dylan)
8.The Boy In The Bubble (Paul Simon)
9.Soul Kitchen (The Doors)
10. Smells Like Teen Spirit (Nirvana)
11. Midnight Rider (Allman Brothers)
12. Pastime Paradise (Steavie Wonder)
で、意外だったのは2、8、12。白眉と思ったのは10。ただし、どの曲も新しいアレンジで彼女の声で歌われると、どれもパティ・スミスの曲のように聞こえる。世間一般で言われるようないわゆる“上手い歌手”ではないが、でも聞くと、上手いなぁ、と、やはりため息が洩れる。個人的に一番好きなのは12の「Pastime Paradise(邦題「楽園の彼方へ」)」で、スティービー・ワンダーで何度も聞いたこの曲も彼女に歌われるとメッセージがより先鋭的に聞こえてドキリとした。
最初に紹介した「パティ・スミス完全版」の最初には「声をみつけるまで」と題された彼女のエッセイがある。それによると彼女は本当に子供の頃から狭儀にも広義にも 声、に自覚的な人だったようだ。昔、ある人に「声が言葉を選ぶ」と聞かされたことがあるが、その通りなら彼女の個性的な詩の言葉の数々は彼女の個性的な声が選んだものという事が言えるかもしれない。ボブ・ディラン、二ール・ヤング、ルー・リード・・・・そう言えば素晴らしいロックの詩人達は皆、素晴らしく個性的な声をしている。
わたしの心にあったのはこういうことだーアーティストの進む道 自由を再定義する道 宇宙の再創造 新しい声の出現 by パティ・スミス
大雨の先週末、「パティ・スミス完全版」を読み、「Twelve」を聞いてぼくは自分の詩を声に出して読みながら書くようにしてみた。
ところで「Twelve」のジャケットの写真だが、これは1967年、パティ 21才の誕生日にかつての恋人(という表現が正しいかどうか)、写真家ロバート・メイプルソープが彼女に贈った手製のタンバリンなのだとか。山羊の皮に彼女の星座(山羊座)のマークがロバート自身の手で刺繍してある。
最高に大事なもの、という意味だろう。
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