
ウィスキーに二つのスペルがあるのを知ったのは詩人田村隆一のエッセイによってである。「自伝からはじまる70章ー大切なことはすべて酒場から学んだ」(思潮社)の第22章にある。
それによるとウィスキーのスペルはWhiskyとWhiskeyとがあって、つまりkとyの間にeが入るものとそうでないものとの2種。ライ麦を主体にしたライウィスキー、トウモロコシを主体としたコーンウィスキー、前者の中間の原料を使い北米ケンタッキー州で作られるケンタッキーウィスキーはWhiskey。
それにまた産地と蒸留方によってもスペルが変わり、スコットランド産のスコッチ・ウイスキー、カナダのカナディアン・ウィスキー、日本のウィスキーはスコッチ方式と呼ばれeが抜けWhisky、アイルランド北部のアイリッシュ・ウィスキーとアメリカ産のアメリカン・ウィスキーはアイリッシュ方式と呼ばれて、eが入りWhiskeyとなる・・・とある。
基本、酒はなんでも好きだが、通風になってからビールをあまり飲まなくなった。知人から通風には醸造酒はダメで蒸留酒なら良いと聞いて、以来、家ではほぼウィスキーを飲んでいる。
いつも飲んでいるのは例の髭のおじさんのラベルの「ブラック・ニッカ・Clear」というやつで、今買うと現在放送中の朝ドラのモデルになった二人のいわれと商品紹介のような解説がついて値段は700円前後。安いが結構美味い。ひげのラベルを良く読むと“Smooth peatless whisky”とあってeの無い方。つまりマッサンが学んだのはスコッチ方式ということだ。
で、ワイン、焼酎、日本酒それぞれに凝った時と同じように、今、酒店に行ってウィスキーのコーナーを見るのを楽しみにしている。先日、いつものようにブラブラしていて、ぼくの目を釘付けにしたのはブラントンというウィスキー(上 写真)。↓はブラントンのホームページ。
箱に騎手を乗せた馬が颯爽と走っている絵があって、ボトルキャップも馬がかたどってある。アメリカ・ケンタッキー州で作られたバーボンウィスキーでこれは“Whiskey”だ。ケンタッキーダービーが行われる地とあってこうした箱、キャップなのだろうが、馬好き、競馬好きのぼくのツボをツンツン刺激して大なる一品。すぐにでも買って御賞味したいところだったが、如何せん、ちと高い。これをブラック・ニッカ・Clearと同じ勢いで飲んでいたら妻に出て行かれるのは必至だろうと思い、それで買うのを踏みとどまる理由としてぼくが考えたのはこれを競馬に勝った時の自分の褒美にしようというもの。なんだかボトルがトロフィのようでもある。WhiskyからWhiskeyへ。その変換を決めるサラブレッドは何れや。
こうして望んだのが昨日の天皇賞。だが、ぼくが今飲んでいるのは“Whisky”なので結果は言わずもがな。金曜日の夜、息子が何故か家にある「ブルース・ブラザース」をビデオ(!)で見ていて、「お父さん、あの映画の最後に出てくる人、スピルバーグって知ってた?」と聞いてきた。あれがサインだった。勝ったのはスピルバーグ・・・って、まんまじゃん。
昨日の東京競馬場。目の前をブラントンの箱の絵は走りながら「E・T」みたいに空へ飛んでいってしまった。eが飛んでいってしまった。ぼくが飲んでいるのは“Whisky”。悔しさで濁った頭のぼくに例の髭のおじさんが慰めて語るに曰く、
Clear. smooth peatless whisky with a delightful aroma and light finish.
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