「Water is wide」と「海への風」
一つ前の朝ドラ「花子とアン」で、主人公が子供時代、「Water is wide」を歌って窮地を逃れるシーンがあった。
「Water is wide」は1600年代から歌い継がれていると言われるスコットランド民謡で、ボブ・ディラン、ニール・ヤング他、洋の東西を問わず、現在も様々なアーティストによってカヴァーされている名曲。最近ではシャンソン歌手のクミコが歌っているが、一番有名なのはやはり1979年に発表されたカーラ・ボノフのバージョンだろう。
僕は初めこの歌を民謡だとは知らず、カーラ・ボノフのオリジナルだと思っていた。聞かせてくれたのは音楽ライターでミュージシャンだった故下村誠。彼は自分のオリジナル・ソング「海への風」を説明するのに、わざわざカーラ・ボノフのバージョンをカセットに録音して我が家にやってきた。「これ今度レコーディングするんだけど、こういうイメージでさ・・」みたいな話。それから例によって強引にシングルCDのジャケットに使うアートワークの素材になる写真をお前が撮れ、と言われたのだった。1990年頃のこと。
下村さんは「川」についての歌が多い人だった。
僕は今、川のそばに住んでいて、散歩もジョギングも通勤も、川を見ながらしている。多摩川の支流の浅川。考えると実家の家も川の前にあったし(藤原川)、原発事故のため弟家族が移り住んだ山形県長井市に先月行ったが、そこにも立派な水量をたたえた最上川がある。
2006年に下村さんが亡くなった時、僕は彼の歌がメジャーにならないまでも、もう少し多くの人に歌い継がれていくのだろうと思っていた。でも、ライブハウスでも、彼が熱心にかかわっていた数々の運動の中でも、彼の歌がうたわれているのをあまり聞いたことがない。
歌は何年、歌い継がれれば民謡になるのだろうか?「Water is wide」は約500年。とらわれないことにとらわれて、さらにとらわれて。時々、ぼくが口ずさむのはこのフレーズだ。いつか詠み人知らずのようになっても歌い継がれていれば、それがソングライターの勝利だろう。
500年後、見知らぬ国のテレビドラマの中でこの「海への風」を歌うことで一人の少女が窮地を脱するシーンを夢想した。
明日、12月6日は下村さんの8回目の命日。
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