避難してきた人、ずっと住み続けている人、復興作業員、原発作業員・・・現在いわき市には、様々な事情を抱える人たちが暮らしているが、そこで営まれる日常の思いや葛藤が詞にも演奏にも自然に滲み溶け込んでいるロックナンバーは、今、何処を探してもこのアルバムでしか聞けないのではないかと、そう思った。大袈裟なもの言いに聞こえるかもしれないが、それはきっと事実だろう。
のこされ島に今住んでいる
逃げ遅れたままと言われている
予定外のストーリー
「のこされ島」 (作詞 関野豊 作曲猪狩定一 関野豊)
いわきのバンドJUICE&LOVEのニューアルバム「50/50(フィフティ・フィフティ)」。19年前の1stアルバムの頃、まだ青く少し危なっかしい演奏とボーカルがまた魅力、と言った感じだったものを、長い歳月は彼等を強靭なダディーズ・バンドに変貌させていた。特に猪狩定一のGuitarが快演。カッコイイR&Rアルバムはあっという間に聞き終わってしまうがこれもそう。12曲で50分。CDではあり得ないA面、B面をカセットテープの巻き戻し音で表現していて、そこも古くて新しいこだわりで面白い。
どのナンバーも味わい深いが個人的に特に好きなのは「腕の中で」と「7×7」。7×7=49。きっと毎年、夏が来るたび、ぼくはこの鎮魂歌を聞くだろう。
それとこのアルバム・ジャケット。普通にかっこいい写真だと思っていたら、年末、関さんに直接手渡された時、これは2011年3月16日の常磐線いわき駅前を撮ったものと聞いて驚いた。原発事故の5日後。静かに目に見えない破壊が進行する無人の街路で、叫び声がやがて「新しい歌」に変わる。まるで小説「コインロッカー・ベイビーズ」のラストシーンのようじゃないか。この写真をセレクトしたバンドのアルバムに込めた思いが伝わってくる。
リピートにして最終曲「Seed」が終わると、いわき駅前の雑踏のものと思われるSEの後、テープが巻き戻される音がする。そのたびにぼくは無人の街路に立たされた気になる。そして聞こえてくるのはまた1曲目の「Hello the world」だ。これは希望の歌。ぼくらが何処で終わり、何処からまた始めるべきなのか、確認したくて何度も繰り返し聞いてしまう。
新年を飾る、胸のすくようなロックンロール。故郷からの嬉しい贈り物。
しかし、何故、いつも傷ついた場所から励まされることになるのだろうか。
人生行くなら
サヨナラちりばめた
しぼりだして言う
真夜中のハロー
Hello the world
「Hello the world」 (作詞・作曲 関野豊)
アルバムは1月15日、全国発売です。上で紹介した2曲は↓のページで試聴できます。是非。
http://juicelove.jimdo.com/
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