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詩人の墓

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 少し前のことになるが、一月の暖かい或る日、JR鶯谷駅を下車し台東区根岸にある法昌寺に行ってきた。目的は詩人・故諏訪優氏の墓参り。氏は1992年の冬に亡くなって、その葬儀の時に訪れて以降、寺には一度も行ったことがなかった。いつもなら近所を散歩するだけのところ、妻と二人少し足を延ばしてということにした。

 24年前の葬儀の時、ぼくは喪服を持っていず、なんとなくそれらしい格好をと黒のタートルネックと黒のジーパン、それと黒のジャケットを着て行って、少々肩身の狭い思いをしたのだが、ほぼ同じような格好している人がもう一人いてそれが音楽評論家でミュージシャンだった故下村さん(その他に白石かずこ氏 友川かずき氏がいた)。ぼくらはとにも場違いなビート二クスのようだったが、今思うと諏訪さんの葬儀には相応しかったような気がする。

 法昌寺は法華経のお寺で七福神の中では毘沙門天を奉っている。着いてすぐお参りし、御朱印を貰ったりした後、早速、墓地に行きしばし散策。詩人の墓を探す。以下、詩人と生前交流があったという佐野元春の文章。

 “諏訪氏のお墓は木立に埋もれるようにひっそりと、しかし絶えることの無い墓参者の花に囲まれ建っていた。強い光が墓石に反射して淡い光の輪を作っているように見えた。あるボヘミアンの墓だった”

   -「ビート二クス コヨーテ、荒地を行く」(佐野元春著 幻冬社) p87より-。

   しかし、すぐに見つかるものと思ったが、いくら探しても墓は見当たらない。(故立松和平氏の墓はすぐに分かった。) 妻と手分けしていくら見て回ってもないので、もしかしたら場所を間違えたのか、と一瞬、考えた程。それで、先ほど御朱印を貰った寺務所にまた行き尋ねることにした。

Photo  この寺の住職はあの“短歌絶叫コンサート”の歌人・福島泰樹氏である。尋ねると歌人・住職曰く、墓はずっとあったが、数年前、他へ移されて今はもうない、とのこと。「どういうご関係ですか?」と聞かれたので手短に話すと「諏訪優はいい男でした。」と一言。そして、「諏訪さんのことを思い出してくれてありがとう。僕もいつも諏訪優のことを思い出しています。」と歌人・住職は言ったのだった。かえって胸が熱くなってしまった。

 
諏訪さんが翻訳したアメリカの詩人バリー・ギフォードの著書「ケルアックズ タウン」(思潮社)の訳者あとがきに、J・ケルアックの「路上」の有名な個所を引用したあとにこんな一文がある。

 “わたし自身、立派な墓(それも、知ったら冷や汗がでるような銘になど飾られた)に絶対収まりはしないが、引用の「路上」の一部でケルアックが描いたような生活と死はイヤである。はやくからのわたしのビート世代への関心と共鳴は、その一時にかかっている。”「ケルアックズ タウン」バリー・ギフォード著 諏訪優訳 p91より

 立派な墓には収まらない、と書いていたが収まってしまったか・・・と常々思っていたが、ボヘミアンの墓、と佐野が言ったその墓は、ぼくの(ぼくたち)の前から忽然と消えてしまったと、そう思った。

 その後はせっかくここらまで来たのだからと、“恐れ入谷の”鬼子母神にお参りに行き、ラーメンを食べて帰った(江戸前煮干し中華そば きみはん 美味なり)。

 根岸の人達は着いた当初から道を尋ねてもなんでも皆とても優しくて、妻にカメラを構えていると “撮ってあげましょうか?”とツーショット写真を撮るのを買って出てくれる人がいたりで嬉しかった。考えてみると東京に暮らして30年近くになるが、山手線内回り田端から先はあまり馴染みがない。
東京の下町、田端・谷中・根津・千駄木・根岸界隈。良いところなのだろう。諏訪さんには詩集「谷中草子」という名作がある。妻と今度は谷中あたりを散策しようと話しているところ。ゆかりの風景の中でゆっくり酒などの飲みたし。


 -見てよ 月が昇るー
 そう言って
 女は一瞬 幼女のような顔になるのだ
 男は暮れなずむ西の空を眺めていた

 振り返ると寺の屋根ごしに
 白い月が掛かっていた

  詩集『谷中草子』“月は東に 陽は西に” より。 
 
 佳い日だった。


 
 PS 詩人の墓はどこにあるのだろう?この日以来、勝手に様々空想していたが、後日、北烏山の
宗福寺(浄土宗)にあると教えてくれる人がいた。ちょうど先日、神保町の古書店街で、二十年前、どういうわけか手元を離れ戻らなくなってしまった氏の詩集「太宰治の墓 その他の詩篇」を見つけ購入したところだった。見開きにかつて見覚えのあった筆跡でサインと印があり懐かしかったが、墓参りが空振りだったこともあってここのところそのサインを墓碑銘のように眺めていた。今度こそ墓前で手をあわせたいと思う。


 諏訪さんについて書かれた文章を見つけた。ご存知ない方は是非。

 http://homepage2.nifty.com/HENDRIX/diary/2003diary/diary2003.2.htm#tokyo

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