The letter
昨日、懐かしい人に電話した。懐かしい声が耳元に広がって、声が少し震えていた。それを聞いてぼくの声も少し震えてしまった。
「何度か手紙を書いたけど、いつも戻ってきてしまったの。」と、代わった妻にその人は言ったという。知らなかった。自分たちが、昔あんなに世話になったその人に、そんな存在になってしまっていたなんて。
仕事はどう?
子供は大きくなった?
普通が一番よ。
私、パソコンはやらないから、と前に会った時に言っていたっけ。「スマホ」どころじゃなくて「パソコン」。ぼくらに書いて戻ってきたという手紙には何が書いてあったのだろう?そしてその手紙を前にしてその人がどんな思いでいたのか。
「今年は今の住所をちゃんと書いて年賀状を送るね。」と妻が言った後、少し会話して受話器を置いた。会わ(え)なかった時間の全部が、ありきたりな言葉と声に含まれていた。
今日は空も鳥も木の葉も公園のベンチも、みんなその届かなかった手紙の中の言葉に見えた。思えた。そんなに遠くない昔、世界はそんな言葉で出来ていたのだ。
昨日、その声は
ぼくにその事を教えてくれた。
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