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没後20年特別展 星野道夫の旅~あなたは私の家にいることができます。

Photo  
 銀座で「没後20年特別展 星野道夫の旅」を見た。

 http://www.asahi.com/event/hoshino20/

入ってすぐのところのガラスケースに古い雑誌と二通の手紙が展示されていた。解説文を読むとそれは1969年刊のナショナルジオグラフィックの写真集「Alaska」と、星野道夫がある人と交わした手紙。

 若き日、神田の洋書屋でその雑誌の中の「ベーリング海峡と北海がぶつかる海域に浮かぶ小さな島」という空撮された写真を見て、こんなところにも人の暮らしがあるのか・・・と驚いた星野青年は手紙を書く。宛先はその島のシシュマレフ村の村長。「仕事はなんでもしますのでどこかの家においてもらえないでしょうか?」との内容だったとか。それから半年後、村長から手紙が届く。「夏ごろに来れば良いでしょう。あなたは私の家にいることができます。」

 展示されていたのはその道夫が見て衝撃を受けたという雑誌の見開きページと、その往復書簡だった。まだ何者でもない星野青年が丁寧なゴチック体で綴ったエアメールには日本の50円切手が貼って在って消印は1973.12.18となっていた。宛先にThe mayor Shishmaref  Alaska USA" ”とだけ書かれた封筒。村長の手紙は未知の青年を気遣うようなきれいな筆記体で書かれていた。

 この手紙のやり取りから星野道夫の旅が始まる。

 その後の展示では信じられないようなアラスカの自然と動物とネイティブの人々の暮らし、そしてその神話世界の写真が目に雪崩れ込んできて、しばらくその場を離れたく無い気持ちになった。愛用していたカメラも展示されていてニコンFE/ニッコール24mm F2.8とアサヒペンタックス6×7 タクマ105mm F2.4。それと愛用のカヤック。

 そして最後まで見て思ったのはやはり最初の雑誌と2通の手紙の事だ。人の旅(人生を旅というならまさに旅)が何をきっかけに始まるのか。星野の凄い写真を数々見た後でとても不思議な気持ちなった。“あなたは私の家にいることができます”。もう思い出せないが、ネットのない手紙の時代には、何かを待ったり、受け入れたり、またその間にゆっくりと気持ちを育てたりするような、世界にはまだゆとりがあったという事なのか。

 写真は勿論の事、あの二通の手紙が今も大切に保管されていることに強い感動を覚えた。

 展示は銀座松屋で9月5日まで。

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