その夜 ラ・カーニャで 2017.10.08
NAKED FOLK SINGERS-ギターをとって弦を張れ!-を見て
中川五郎さん 三浦久さん 若松政美さんへ
その夜のラ・カーニャは
沸騰する水を見るよう
子供の頃 キャンプファイヤーで
歌ってくれたお兄さんが
突如 現れ
あの頃の続きを今また歌い始めてくれたよう
お兄さんは年を取ったが
ああ でも今は あの時より若い(1)
水は
西の広場の井戸から沸いた
ギターの音とことば
薬缶から"ピーっ!"と音がして
ことばから噴きあがるその水蒸気の斧が
神社の椎の木を
なぎ倒す幻をぼくは見た(2)
その夜のラ・カーニャは
水槽に水が溜まるのに見惚れるよう
細流はみるみる物語(バラッド)になって
ゆっくりと
人のたましいを満たす
年老いた旅の禅僧に
どこまでもついていく月
ああ でも今は あの時より若い
水は
カリフォルニアの井戸から沸いた
ギターの音とことば
水槽に水があふれても
それを止めに走るひとは誰もいない
暗がりに立つ
美しい女の目から
涙がこぼれ落ちるのをぼくは見た(3)
その夜のラ・カーニャは
一杯の柄杓の水
夜勤明けのきみが 砂にまいた
柄杓の水
だがこの水は
ギターの音でもことばでもなくただの水
だが潤された砂は元の砂にあらず
砂に咲く花が
開くときの音をぼくは聞いた
その夜 ラ・カーニャで
その夜 ラ・カーニャで
(1) ボブ・ディラン 「My Back Pages」より。
(2) 中川五郎さんの「トーキング烏山神社の椎の木ブルース」に歌われる朝鮮人虐殺の加害者を労うために立てられたという椎の木のこと。
(3)レナード・コーエン 「Bird on the wire」の歌詞からのイメージ
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