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南極の氷

海洋探査から帰って来た友からのみやげだと
息子が南極の氷を貰って来た
南極の氷と冷蔵庫の氷の、何処が違うのか?と聞くと
何でも三千万年前の空気が
入っているのだと言う。

見ると確かに細かな気泡が
つぶつぶつぶつぶ一杯あって 
水につけるとじゅわーと音がし泡が 昇ってきては 
その三千万年前がはじけて鼻孔をくすぐる筈だと宣(のたま)う。

さてどうして使ったものかと妻に問えば
コーラに入れようと言うのだが
それでは三千万年前のじゅわーと
コラーのじゅわーが混ざってしまって何だかとてもおもしろくない。

やはりウィスキーのロックだと
グラスを出して
ハタと思うに
マンモスの毛やペンギンの糞
タロとジロの涎やらが入っていないだろうか?
〈シロクマの目ヤ二とか〉

我が酒神、大いに尻ごみて
髭のボトルを棚に戻すと
風呂が熱すぎた時にでも入れればいいと考えたが
南極の氷が溶けると海面が上昇し
やがて大陸が沈むのだとの、いつかのラヂオを思い出す。

やはりウイスキーのロックだ、と気を取り直し
氷ぶち込みトクトク注ぎ 
黄金(こがね)のグラスに耳を当てれば
氷の中の三千万年はじゅわーではなくピキピキピキピキ。

それはまるで大きな伽藍が倒壊する時の
小さなひびが徐々に徐々に広がる音。

聞くほどにドキドキしてきて
グラスのウイスキーをがぶりと飲めば
妄想のオーロラが脳内に現れかけたその矢先
点けっぱなしのテレビの天気予報から
明日は季節外れの春の陽気と、アナウンス。

すわ、温暖化、と、やにはグラスに指突っ込み
急いで氷を救出すると、
また冷凍室に戻してバタンと戸を閉めたのだった。

以来、
夜毎、気が付くと
エコロジストの顔つきで
冷蔵庫を開けては確かめている
南極の氷。

ピキピキピキピキピキピキピキピキ
ピキピキピキピキピキピキピキピキ。

                               2018 3.4

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