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うめる

   Ⅰ.

   埋める
   死者を埋める
   犯罪の証拠を埋める
   ハイエナがかすめ取った
   骨付きの肉を埋める
   盗品を埋める
   ゴミを埋める
   サラリーマンが
   違えた約束を
   酒の席で埋める
   予定を埋める
   クロスワードパズルのマスを
   文字が埋める
   考古学者が
   調査済みの現場を埋める
   熱い風呂を
   水で埋める
   SNSのコメント欄を
   ネトウヨが
   ヘイト発言で埋める
   株の損失を埋める
   命令の後の沈黙を
   従順な
   返答が埋める
   海を埋める
   珊瑚を埋める
   ダンプがバックして
   土砂が
   青い
   青い海を埋める
   
   何を弔った?
   何を隠した?
   どれだけ食った?
   何を取った?
   何処に投げた?
   どれだけ酔った?
   工程通り?
   どんなスローガン?
   何が分かった?
   ぬるくない?
   どんなフェイク?
   何に使った?
   誰の言いつけ?
   何を殺した?
   何色になった?

   Goddamn.

   私たちは生める
   詩を
   歌を
   物語を
   絵を
   新しいアイディアを
   互いの理解を
   まだ若い父親が
   震えて待つ
   産院の朝を
   生める
   赤ん坊を
   パンを
   次の食事を
   サラダボウルの淵
   の
   淡い光
   ミニマルな日々の
   点描の
   タブローを

   Ⅱ.

   うめる
   にわとりはたまごを
   かみさまはうみを
   うみたてのたまご
   うみたてのうみ
   うめたたまご
   うめたうみ
   うめたてられたうみ
   うみすてられたたまご
   うめる
   わたしたちはうめる
   こわされたものを
   ねじまげられたものを
   こわれたたまごを
   こわされたうみを

   うめる
   なんどでも
   うむ
   うめる
   わたしたちは
   うみをまた
   うめる
   うみをまだうめる
   うみを
   またうむ

   うみはまたうまれる

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ダム


風が吹かなければ
澄んだ底の方に
郵便ポストが見えるかも
学校や床屋や
めし屋
それと古い写真館とか

と すると
この翡翠色の大きな水は
沈んだ村の
墓標なのかもしれなくて
だからぼくは
会いにくるのかな


前世で故郷だったかもしれない
この美しい
大きな水に

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死んだP.C(SX2885-54F)に


例えばファミレスを居酒屋代わりにして
昼間から一緒に飲んでいた友人が
突然、胸を押さえ倒れたみたいに、お前は息絶えた。

一度だってオレはお前を労ったことなど無かったし
お前だってオレに何かの証を立てたことなどなかった。

だが
こうなってみると
結局、
期せずして
二人は友達だったのだ
朝も、昼も、夜も
オレはお前に語り続けた
お前の「向こう側」にいる誰かなどにではなく
文字通りお前に。

手紙を書き、写真を見せ、好きな音楽を教え
共に歌った。

悪意に怯え、不実に怒り、共にユーモアに笑った。

知らなかったのだ いつまでも若いつもりでいる
オレの隣で
こんなにも早くお前が年老いることなど。


知らなかったのだ 饒舌なビートニクスみたに喋る
オレのことばを
お前が余裕綽綽でうけとめてくれていたのではなかった
ということを。

最後にお前の目に映ったのは
オレが撮った
夕焼け空に飛行機雲の直線が
淡くほどけていく写真。

ドクター曰く
「おうちにタバコを吸う人はいませんでしたか?」

セカンドオピニオン曰く
「加齢により 管が弱くなっていたのでしょう。」

昨日、妻に前抱きにされたお前が
オレには
遺影か骨壺のように見えた。

さよならP.C
さようなら

こういしてイニシャルだけ書くと
なんだか古(いにしえ)の
ジャズミュージシャンみたいだな。

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