みうらじゅんがジョン・レノンの『イマジン』の元ネタは般若心経だ、のようなことを書いているのをどこかで見かけたことがある。あながち変な話でもないと思う。ジョンが般若心経の刺繡の入ったジャンパーを着ている写真を見たことがある。
初めて写経をしたのは東日本大震災の頃で、こんな自分でも連日メディアに取り上げられる悲劇を前にして何か思うところがあったのだろう、100円ショップで上からなぞればいいだけのセットを買ってきて筆ペンで写したのが最初。ただ意味が分からないので、故・瀬戸内寂聴氏が解説したお経の名がそのまま著書名になっている本をその時に読んだ。
読むと、あれもない、これもない、と、ないないづくしの経で、ありがたいお経だと言われつつも内容自体、何故この教えがそんなにすごいのかしらん、と正直、分からなかった。ただ意味が分からなくとも写経自体、それだけで供養や功徳になるのだのようなことも書いてあって、それで結構長く続けたのだが。。。。いつしかフェイドアウトしてしまった。
今、自分は毎週火曜日に写経している。去年、妻が病を得たのを機に回復祈願のつもりで、そして今はその習慣の続きとして永眠した彼女への菩提供養という意味でやっている。2011年の頃の見知らぬ他人へ向けてやるのと、今身内に向けてやるのとではまるで違う行為のようで、その切実さの違いに、自分の浅はかさや身勝手さを思い知るようで慄いてしまうのだが、再開するにあたって、せめて経の内容をより良く知ろうと去年、手にしたのが↓の本。
この本が無数の「般若心経」の解説本と大きく違うのは「空(くう)」ということばの解釈だ(と思う)。色即是空 空即是色 の「空(くう)」。多くの解説書ではそれを無、のように説明するが、そのように説く経が何故、仏教最高の智慧の一つと言われるのかが自分には以前から良く分からなかった。空=無のように言われると虚無感のみが広がって慈悲心など生まれようもない気がしてしまう。
本書ではそれをInterbeing=相互存在のように説く。ここで詳しくは書かないが、一枚の紙の中に雲が、雨が、労働がある、との説明は、詩のことばのように聞こえるが、著者は時にそれを物理学や宇宙学の知識やことば等も用いて説明もしていて、つかみどころのないと思われているこの経典が実用書的にグッと身体に引き寄せられるような、読んでいてそんな気持ちになった。
著者についてはあえて書かない。どうか調べて欲しい。今は「マインドフルネス」の創始者のような紹介のされ方をされることが多いようだが。
ティク・ナット・ハンの生涯 | Plum Village
話は変わるが、さっきジョン・レノンの名前が出たので、もう一人のビートルズ、ジョージ・ハリソンについても書くと、彼に『All things must pass』という歌があって、以前、その曲名が『万物流転』と訳されているのを見たことがある(確か昔の日本版のシングル盤のジャケットかなにか)。
だが自分はこれを「諸行無常」と訳したい。「諸行無常」も仏教のことばだけど『平家物語』の冒頭の一節のせいか、何か虚しさを誘うような響きはないだろうか。だが自分はこのことばもジョージの曲のようなポジティブさでもってとらえ直したいと思うのだ。
で、何が言いたいかというと、自分は「空(くう)」を上述のように解釈したティク・ナット・ハンのこの本を、この歌のような気持ちで読んだということ。
読後感は悪くない。興味のある方は是非。
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